☆グループ☆
私は広い戦艦に飛び乗る。
仰々しい鉄の筒は殺意だけを込めて照準を合わせ、勝利への足がかりにする。
首都のあるいわゆるフーニル島の港、月定港から戦艦は出港した。
天然の良港である月定港は月魄の国統治時代に整備され、フール諸島国最大の港になった。
近くに軍事拠点があり、その周りには造船を含む軍需工場もたくさんある。
そういう事情も重なり、この港が選ばれたのだ。
「隊長、お別れしないんですか?」
彼は私の小隊の副リーダーを務めてくれるボーリャだ。
私たちは甲板でお別れをするような必要はない。だって──
「すぐに再会するからね」
そう言うと彼は納得したのかクスリと笑った。
それに満足して私は部屋に戻る。
げぷ。
ヤバい、船酔いした。前乗ったときは酔わなかったのだが、この辺の海は波が強いのかもしれない。
便器が顔はめパネルみたいになっちゃってるもんな。こりゃまずい。
(ぷぷっ)
はぁ!? 何だコイツ!
これはフィヤルナですか、バカにしてる。許せないですけど。
(隊長のクセに……、体調管理もできてないじゃん)
おい、セレイア。あんた語尾が笑ってるぞ。あ〜あ、許さないわ。くだらないダジャレ言いやがって。
(オリヴィア様、なんか攻撃受けたんですか?)
サヴダシクに関しては煽りなのか素なのか分からないし。
(……黙ってて)
魔力の玉を喉の奥に突っ込むか?
立ち上がるが、蹌踉めいてしまって壁に寄りかかる。
乗っ取られてしまいそうなあやふやな思考のまま、歪んだ視界が船の絵を捉えた。
焦点が合わないまま、気絶するように眠りについた。
ぺち、ぺち。
目を覚ますとザキルが呆れ顔で私を覗き込んでいた。次のビンタを止めて、ザキルはニヤニヤしながら言う。
「くっさぁ」
「嗅覚オフにしなよ……」
嗅覚機能をオフにできるはずなのになんでオフにしないんだ。
く、恥ずかしい。トイレ流してなかった。
「こんな醜態二度と見れないかもだから、記憶モジュールに焼き付けておかないと」
プルプルと震える指先をトイレのレバーに引っ掛ける。トイレにできた渦が全部飲み込んでくれた。
「……ってか、なんで来たの?」
私が壁に身を預けながら聞くと、
「オリヴィアちゃんが部屋から出てこないから、ボーリャがめちゃくちゃ心配して。"女の子の部屋にボクが入るわけには行かない"とか言うから、あたしが来ることになったんだよ」
その言葉に驚いて、トイレから出て時計を確認すると、会議の時間を数分越えていた。
「はっ! まずいっ」
私が走りだすと、足が縺れてバランスを崩した。
絶対今揺れた。間違いない。
「……何してんの」
そういうのが一番悲しくなる。その冷ややかな目も刺さる。
「早くいくよ」
膝についたホコリを払って、私の部隊が集まっている場所に行く。
戦艦内ではかなり地位が高いからか、皆に敬礼されて困惑する。背中に泡をつけとけばよかったかな。
そうこうしているうちに作戦支部のドアの前についた。盛り上がっている部屋とを隔てる滑らかな木の板を見て息を整える。
意を決して、こんこんと扉を叩いて、ドアを開ける。
「ごめん、寝てた。待たせてしまったね」
私は席に座る前に謝る。ボーリャは安堵したのか顰めた顔を緩め、
「ご身体はいかがでしょうか? 船旅は不慣れだと伺いましたが」
と聞いてくれた。
「うん、少し寝不足が祟ったみたい」
へへ、と笑いながら言うが、
「お顔の色が優れないようにお見受けしましたので……。お体調を崩されたのではないかと懸念していたのです」
過ぎた真似であることは重々承知しているのですが、と付け足すボーリャ。
「ふふ、オリヴィアちゃんこの船じゃ武器と眠れないからあんまり寝付けないのよ」
「いわないで」
顔が熱い。
なるべく俯かないようにするが、恥ずかしさで足が震える。
ボーリャも目逸らしてるし、気まずい。
「と、とにかく! 作戦会議するよ」
ぱちん、と手を叩いて空気を変えさせる。
「オリヴィア隊長。どのような作戦にする気だ?」
そう質問してきたのはギャチという男だ。
私が隊長なのは、たぶん監視しやすいからだ。
もし、私たちが敵対的な行動をとれば軍をそのまま私に向けて動かせる。
まあ、どちらにせよ私は倒せないけど。
(ずいぶん元気になりましたね。2時間くらい気絶していたのに)
サヴダシクがそう言ってきた。
(お姉ちゃん、オリヴィアを虐めないであげなよぉ)
サヴダシクは天然煽りだからまだしもコイツはわざとだ。
堕霊の方を遮断したほうがいいのかも。でも、天使はまだ知らないからな。
地獄の二択だ。喧しい堕霊に心裡をさらけ出すか、何も知らない天使たちを目の前にして心の外套をかなぐり捨てるか。
だめだ、天使の前では誇らしいリーダーでありたい。
「隊長……? やはりお休みなされてはいかがでしょうか」
心配そうなボーリャの声に思考を遮られた。
「えへへ……。強がってるつもりはないよ。でも、集中しないと。私が指揮するんだから」
咳払いをしてから、海の地図を爪でなぞる。
海戦予定地を囲ってから、
「いい、この辺りで私たちの戦艦を中心に立ち回る。ソル帝国は中海を通ってここに来るため、船の整備が足りず本来の性能を発揮できないはずだ」
これは中海がどこの国にも属していないことを利用せざるを得ず、遠回りしてくることを知っているからだ。
多くの国は反応がなく、自分の国は自分で守るという精神が反映されているのが分かる。
即ち、燃料補給などに力を貸すこともしないし、フールを助けるために援助もしない。
「だから、相手の戦艦を潰すために私は相手の船に飛び移る。あなたたちは潜水艦? とやらに移って水中戦を展開して」
潜水艦言うのはルナトとの共同開発らしい。ほぼ無制限に水中で待機できて、船員の魔力を使って砲弾の威力もあげられるとか。
「それじゃ、私についてくる人を読み上げるね。その後は各自敵船を潰すこと。火をつけてもいいし、敵船の旗を斬り落とすのでもいい。いくよ、ファーニン、ボーリャ、ギャチ。私が運べる数に制限はないから、ついて来たい人がいるなら連れてく」
そう言うと数人手を挙げてくれた。
その後にも何個か情報を共有する。
(もう二度と怪我して欲しくないんですけどね)
その言葉に心が揺れる。
(うん)
こんなのも案外悪くないかもなぁ。
ズドンッ。
戦艦から飛び出した砲弾はソル帝国の旗をぶら下げた戦艦に当たった。
潜水艦部隊にはヘーレとザキルに指揮権を委任した。
私は海に飛び込む。
ズダダダダッ!!
鉄砲だろうか。小指くらいのサイズの弾を撃っているようだが、残念ながら私の、というかフィヤルナのシールドは破れない。
船にもちゃんと張ってもらったし、しばらくは保ちそうだ。
外が真っ暗だから水中はあまり良く見えないが、魔力感知があるから敵船の位置も丸わかりだ。
事前にタイマーセットしていた竜巻を起こす。この前の洞窟探索の時に、水中でスキルを使えないことに気が付いていてよかった。水面に空いた穴に向かって泳ぎ、そして風の渦の中を飛翔した。すぐに渦の頂点を越え、そのまま俯瞰する。
敵船には眩しいライトが点灯され、隠れるのをやめたようだ。
『黒鬼』を出して甲板に着地する。
転送門を作り、私の指揮下の者だけでなく、他部隊の者たちもここを通ってやってきた。
「オリヴィア隊長……、健闘を祈ります」
「ボーリャ、任せて。私はあなたが怪我をしないことを願うよ」
胸に手を当てて私がボーリャに言うと彼は小さく笑ってボーリャについていく仲間と連絡を始めた。私はファーニンに向き合い、
「ファーニン、一旦任せた」
そういうと、私はすぐに次の船に飛び移る。
宙に浮いた私の身体に向けて鉄砲を撃っているが、それは効かない。
「三権権能 堕霊・赦免」
球状にスキルを発動させる。
私以外のスキルの発動を許さないという権能なのだが、普段はコスパが悪すぎて使ってこなかった。
というのも、大気中の魔力の結合によるスキルを邪魔するためにその全てを私の支配下に置くのだが、位置を特定したりするような技量は持ち合わせていないからめっちゃ疲れる。
わかりやすく言うなれば、毎回作る料理や食べる人に関係なくパーティーみたいな量の溶き卵を作ってる、みたいな?
今の私では人数や規模に合わせて量を調整できないのだ。もっと慣れれば参加数に合わせた溶き卵を作れるようになるんだと思うのだが。
「灰化能力 黒・料理屋」
この船欲しいし、なるべくスキルを使いたくない。だから、『黒鬼』にエンチャントするくらいに抑えておく。
「おいでよ」
パァン、と銃弾が飛んでくる。それはスキル由来じゃないらしい。
『黒鬼』で銃弾を防いで前に出る。
「ばっ、バケモノが!!」
「失礼だね、マザリモノって呼んでよ」
血で船が汚れては敵わないから、殺した死体はスキルで回収する。
どっちにしろ後で『掃除屋』の分離で綺麗にするけど。
次から次へと敵兵を倒していく。
「止まれ」
私の快進撃を目の当たりにして動じないのか。面白いヤツだ。
「止まったよ」
ってか、その手に持ってるのってフレイル? 一番キライかも、船壊れるんじゃない?
「太陽よ、永遠であれ!」
ヴィエロ? 私たちの仲間にも居るな。
考えても無駄か、どうしようか無理やり自白させようか。
そんな事を考えていたら身体が勝手にフレイル男を追い詰めていた。
振り下ろした『黒鬼』はあっさり鎧を斬り裂いて鮮やかな血が噴き出す。その血は全部吸収する。
危ない、血のシミはなかなか取れないんだよな。布ならまだしも木に染みちゃうとなかなかしぶとくて。
「隠れた太陽を!」
そう叫んだフレイル男にとどめを刺す。
そして、他部隊の隊長からの無線が静かに告げる。私たちは第一波の戦艦群を完全に制圧することに成功したということを。
ただ、ともに生き貫きたかった──崇高なる炎
あなた様と共にあること、それだけが望みです──熾烈な雷 トルン
大地を震わすあたしの愛を受け取りなさい──震撼の天使 ヴィーヴル
妾はいつでも、準備できてますよ──思い出された太陽 ヴィエロ
いつか再び会える日を、会えぬと知りてなお求める──壊さぬ純霊 カオス
"&"の右側が受け取る方で、左側の人達のスキルと同等または劣化版となっている。
サヴダシク&オリヴィア
「三権権能 堕霊・赦免」
セレイア&オリヴィア
「三権権能 堕霊・裁判」
フィヤルナ&オリヴィア
「三権権能 堕霊・断罪」
ルーヴァ&オリヴィア
「五輪権能 朱輪」
トルン&オリヴィア
「五輪権能 紫輪」
ヴィーヴル&オリヴィア
「五輪権能 黄輪」
マニ&その他仲間
「蒼水能力 優水」
マリ&その他仲間
「朱雷能力 人狼」
マル&その他仲間
「沈黎能力 人狼」
ヴェレーノ&その他仲間
「白焔能力 幻猫」
ヴィエロ&ザキル
「牲終能力 封印」
カオス&マニ
「博冥能力 蒼輪」
オベイール&マニ
「遺能力 喪輪」
オリヴィアの仲間&オリヴィア
『恵灰能力 半神・掃料』




