☆雑音ラジオとアーワン☆
ハナトレに戻り成果を伝える。
「ヘーレ、ありがとう。また会える日が来たら」
私がそういうとヘーレは少し考えてから、
「ウチ、決めたの。ついてく!」
「……はぁ!?」
そう叫んだのは意外にも──私だ。意外でしょ、そういう一面もあるんだから。
(ワタシたちに話しかけてるの? なんて尊い)
そうだった。最近反応がないから忘れてたけど、私の思考に天使や堕霊は介入できるんだった。
(あんたらに話しかける時の癖がたまに漏れるの)
私はできる限り表情を崩さないように、セレイアからの煽りをなんとか消化する。
(あー、反応したぁ……。聞いてて面白かったのにぃ)
フィヤルナもか。いい性格をしてる。
ってことは、私の今までの考え事とか全部聞かれてたのか!?
前まで『灰化能力 黒・料理屋』だったのが『灰化能力 黒・料理屋』に替わったせいで"料理屋"に掛けていたロックが外れて、そこに住まわせていた堕霊たちに思考が漏れていたようだ。
慌ててロックを掛けようとするが、なぜかうまくいかない。
もしかして、コイツら邪魔してる……?
(してないですよ)
サヴダシクがそう言ってきた。
(え、料理屋にロックかけようとしたら掃除屋のロックが外れるんだけど……)
(ワタシたちかルーヴァたちには絶対聞かせないきゃいけないみたいね?)
終わった。私の考えは全部誰かしらにバレるんだ……。
「────う。ねぇ、お姉ちゃん?」
いきなり振られてびっくりする。
「もちろん」
なるべく当たり障りのない言葉を言っておこう。
なぜかヘーレが喜んでいるから大方会話の内容は理解したのだった。
「『これは由々しき事態である』
その声明とともにソルは軍隊の強化を実施しているそうです。そのまま軍のない泡実島はあっという間に支配下に置かれてしまうというというシミュレーションもあります」
帰りの船、スプーマのラジオがなっている。
田中船長も珍しく静かで現状のおかしさが際立つ。
「あたし、何千年か生きてるけど戦争の経験はほぼないんだよな」
ザキルの声でようやく息をつけた。
「私も2回しかないな」
私がそう言うとマニは頷いた。するとファーニンは驚いたように、
「2回もあるの……?」
と呟いた。そういえばと思って視線をずらしたらヘーレは寝ていた。
「やっぱり……介入する……?」
出来るならしたくないが、戦争中の国を見捨てて次の国に行くほど焦ってもいない。
私とマニは相互の"神効の奪命"でないと死なないのだが、ほかの仲間は死んでしまう。
(まだ恐れるんですか?)
ぎゅっと唇をかみしめる。だって、私が悪いんだ。
(……それでもいいと思いますが)
ただ、と続ける。
(どうか、もう二度と、願わないでください)
何が言いたいのか、分かった。
でも、それだけは無理なんだ。ごめんね。
帝国の厳粛な会議、その最中、ある女性が立ち上がった。
「我らが『鳩雫甲団』におまかせを」
それに薄く笑う帝王は、
「興毅官、お主はそれを全うできる、そう言いたいのか?」
と言った。
「俺ら『黄桜秋団』の出番はなさそうだな! はっはっは!!」
大笑しているのは靭やかな肉体の女性だ。
「虚舌官、おまえの仕事は別にあるぞ」
女帝がそう言うと、虚舌官と呼ばれた女性は机に上げてあった足を下ろして体を前のめりにする。
ここまでの不敬が許されているのは、虚舌官が優秀であり、かつ女帝の旧友であるためだ。
「『疾鳥弓団』は?」
中性的な顔立ちの男は手を挙げて、ハキハキと問うた。
「良いか? 虚舌官は捕虜処理、天喉官は影響下の村の反乱を鎮圧すること」
女帝は壁にかかった絵を見つめながら言葉を続けていく。天喉官は頷く。
「釘鄭官」
虚舌官がそう言うと、ずっと黙っていた釘鄭官は、
「これにて帝国議廷会を閉廷します」
その言葉とともに各々がすべき事を成すために。
港でソワソワしている男がいる。
なんだ、あれ。不審者以外の何物でもないぞ。
潮の匂いを抱いた暗闇から声が聞こえる。
「オリヴィアさん! よかった、すれ違ったかと……」
不審な男はなんとギルドマスターその人だった。
船を降りて彼についていく。
少しの沈黙のあと、それを裂いて彼は口を開いた。ただ正面を見て。
「アーワンの名を聞きましたか?」
私は考える。なぜいきなりその話なのか?
「……聞いてないよ」
「そうですか……」
気を落としたのか、彼のトーンも下がった。
「彼は悪魔なのです。もちろん比喩的な」
「と言うと?」
私が彼に発言を催促するように問うと、頷いてから、
「貴方を騙すようなことだけはしたくなくて。じゃないと、ヌクを含めたギルドメンバーを殺されかねませんから」
「とんでもないブラックジョークだね」
ギルドマスターにそう皮肉られ、頬を膨らませて言い返す。少し空気感がマシになった。
マニに先行くように耳打ちし、二人きりで残る。
「今すぐ殺してあげようか」
「ふふ、そこまで堕ちてないの、知ってますよ。でなければ、ヘーレが生きているはずがない」
ギルドマスターは私を試すようにそう言った。
「聞きましたよ、村からの通信でヘーレの活躍を」
ギルドマスターは私の周りを歩き始める。コツコツ、と言う音が規則的に私の鼓膜を揺らす。
「私たちは泡実島の占拠を許すわけにはいきませんが、万一、そうなった際に参戦します」
「住民は」
「もう逃げるように勧告を出しています」
逃げないようなら私が無理やり島から追い出そう。
「交戦準備は何とかなりました。まもなくでしょう」
──その数日後
『ソル帝国は宣─ザッ─布告。月魄の国はソルを強く─ザザッ─出規制を始めたそうです。私たちに出来………蓄をしておき、シェルター内で─ザザーッ─を守ることです』
指先でノイズばかりのラジオの電源を落とすボタンを探って押し込む。
ベッドから出て、ファーニンの部屋に向かう。
「おはよう、オリ」
「おはよ、ファーニン」
大きく伸びをしながらそう交わす。
「買い出しに行こう」
ファーニンはそう誘ってきた。
私は頷いてワープゲートを開く。ファーニンはすぐに入っていき私も後を追う。
スーパーは閑散としていて、商品は棚から落ちている。
音かごを取って残った食べ物を適当に購入する。ファーニンは音かごが積まれた様を見てボーっとしている。
「どうしたの?」
と聞くとファーニンは目を閉じてゆっくり動き出した。
「うん、あの日泣いちゃったことを思い出して」
泡を失ったファーニンは頭を掻きながらそう言った。
「大丈夫だよ。私がいる」
そう言うとファーニンは困ったように笑った。
「そうだね。全く違う生まれでも私たちは繋がり合えたんだから」
微笑むファーニンに私も顔を綻ばせる。
確かに、生まれた国も世界も違う私たちが仲良くなれたんだ。
その後も食料を買っていく。長持ちする缶詰めや瓶詰めは売り切れていて、ヴァルメシは入手困難らしくそもそも販売されてすらなかった。
スーパーを出て冷えた空気を肺いっぱいに吸い込む。
太陽が無いせいで気温が上がらず常に肌寒い。そこら中にある炎魔力は気温調整をするためなのかもしれない。
ファーニンの家に戻ると皆ダイニングルームに集まってノイズばかりのラジオ放送を聴いていた。
だが、その団らんも次の瞬間に裂かれた。けたたましい警報とともに泡実島の陥落が発表されたからだ。ソルに占拠された以上私たちの参戦が決定してしまったようだ。
素性のわからない異国の冒険者にはあまり頼りたくなかったのだろうが、やっぱり出しゃばるべきだったのかもしれない。
再びワープゲートを開いてギルドに向かうことにした。
いつも通りソワソワした様子のギルドマスターは私に縋り付いて、
「お願いします……、泡実島沖に向かう戦艦に乗ってほしいんです」
戦艦……と言うと『隊蟹祭』で、誇り高きとか言ってたやつか? え、それこそ私が乗って良いようなモノなの?
「全員乗せることはできないのですが、ファーニンさんと、オリヴィアさんと、ヘーレさん、あともう一人」
なるほど、自国民を優先するのはよくわかる。
もう一人ってことだが、マニは別の船に乗ってほしい。というのも、私とマニは隔絶されない限り魔力通信ができるのだが、ほかの人とは距離制限があるからだ。
「ザキル、お姉ちゃんについて行って」
あれ、ザキルはマニについていくと思っていた。
「いいの?」
私が聞いてみると、マニは頷いて、
「うん」
少しニヤけているから多分何かするぞ。
まあ何するか想像がつくし、放置でいいだろう。
「大丈夫ですよ。別経路の船だってちゃんと整えさせましたから」
「作戦は?」
はい、とギルドマスターは相槌を打ってから、
「オリヴィアさんをリーダーとした戦艦部隊は泡実島沖合で海戦を繰り広げ、ソルの海軍を弱めます。そして先に上陸していたマニューバさんを含んだチームと合流、占領地を奪還します」
ほう、まあ良いんじゃない?
私はそういう作戦は苦手だから圧倒的な武力で押し潰してきた。たぶんそういうわけにもいかないんだろう。
「それで行こう」
本当に分かってますか、と聞かれたが私はそんなに分かってないぞ。
まあなんとかなるだろう。自分の尻拭い位は出来るつもりだ。
「じゃあ、作戦の方はお任せします……」
そうして私たちはそれぞれの任務を全うするために動き始めるのだった。
僕はあなたの軍旗に従います──黒に忠実なる者 ボーリャ
楽しけりゃ良いんじゃない──愉悦に輝く ギャチ




