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きみに、  作者: むんく
学院編.Ⅰ
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7 『まどろみ』

 目を覆いたくなるような惨劇の舞台で、爆発に巻き込まれたはずの三人は呆然としたまま無傷で立ち尽くしていた。

 そんな少年たちを現実に引き戻したのは、ミラの悲痛な叫びだった。

 慌てて声のほうを向くのと同時に、辺りは大聖堂の姿を取り戻す。そう離れていない場所で、ミラが倒れている二つの人影に何かを必死で呼び掛けていた。


「リスティッ!!リーゼッ!!」

 

 横を通り過ぎて駆けて行ったアカツキの背中を目で追いながら、ラクトはまだ動き出せないでいた。


「アカツキぃっ、どうしよう…っ、二人とも目を開けないの………っ!!」


「治癒魔法は!」

「外傷は少ない!内臓になにかあっても、あたしじゃどうにもできないのっ!」「ちくしょう…!」

 何かが割れる派手な音と同時に、遠くのほうから足音が響く。

 そちらに目をやると、縹色の髪をなびかせた麗人が血相を変えてアカツキ達の方へ走り寄った。

 彼はレイシュヴィーゼにすがるようにしていたミラを押し退けて地に伏せる細い身体を大事そうに抱き上げた。

 目まぐるしい展開に言葉を失っていると、縹色の麗人を追うように銀髪の男が現れた。

 おもむろにリスティーユの額に手を翳すと、すぐそばで見上げていたアカツキに彼を背負うように指示を出す。

 麗人とアカツキが扉の外に消えたのを見届けたラクトの肩に、ぽんと手が置かれた。

「いつまでンな顔してんだ。着いてきな。」

 彼の背後には、自我喪失状態のミラとベルの姿があった。二人が無事だったことに今さら安心すると、ラクトは小さく頷く。


「…ビステルだ。今日からてめーらの面倒みることになってる。『歓迎会』は…、災難だったみてぇだな。」






 レイシュヴィーゼが意識を取り戻したのは、それから三日後のことであった。

 うっすらと瞼を開けた彼女が無意識に身を捩ると、そこには優しげにこちらを見つめる眼がある。ウィグルだった。

「ウィグル……。」

 自身の口から出たのは、思ったより掠れた声だった。重たい腕を彼のほうへ一心に伸ばす。

 ウィグルはベッドの脇に膝をつき、小さな手を両手でそっと握りしめた。

 じわりと伝わる温もりがあまりにも心地よくて、レイシュヴィーゼの目じりに涙が伝う。

 こわかった。こわかった。こわかった。あの時は何とも思わなかったベルが自分に向けた切っ先、異形の生物の恐ろしい風貌が今になって恐怖を形作る。

「こわかった…っ!ウィグルっなんで来てくれなかったの…。もう、そばにいてくれないの?ねえ、」


「ごめん。」


 辛そうに目を伏せる彼を見ていると、不思議と自分が切なくなってきた。見えない力に胸をぎゅっと鷲掴みにされたような気分だ。

 そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。

 レイシュヴィーゼの心はこれまでに無いほど混乱していた。恐怖と安堵と切なさ。十歳の少女が整理するには複雑すぎる感情であった。


「きみが望む限り、僕はもう離れたりしない。独りにもさせはしない。―――僕はいつまでもきみと共に在るよ。」


 久しく見ていなかった従者でなくウィグル・フリーとしての顔。壊れものを扱うようにそっと髪を撫でていく彼の指先がひどく懐かしく感じる。

 それからレイシュヴィーゼは微睡む意識のなかで、額に優しい感触を感じながらゆっくりと目を閉じた。

「おやすみ………レイラ。」

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