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きみに、  作者: むんく
学院編.Ⅰ
6/25

5 『異形のもの』

2010・06・25改稿しました。

 おもしれぇ。

 実に好戦的な赤い眼差しを一点に向けたまま、ビステルは呟いた。


「遂に全員合流しやがった。ずば抜けた魔法使い共三人と、ワケアリ三人衆。」


 口角をつり上げる元・上官に、ウィグルは苦虫を噛み潰したような顔をした。心のなかで。

 彼が知るジェラルド・ビステルがこうして愉しげに笑うとき、大抵はその悪魔の笑みを不吉の予兆なのだと解釈している。

 昔は迷惑を被らないように可能な限り自主避難に努めたものだが、今回は渦中に仕えるべき主の姿がある。

 もちろん彼女を放っておくことができない従者としての己は、わざわざ危険地帯に飛び込むことになるだろう。

 ワケアリ三人衆?肩書からして、明らかに怪しさ満点じゃないか。

 どんどん混濁していく事態に、ウィグルはこっそりとため息をついた。






 まもなく合流した六人は、あっと言う間に打ち解けた。

 旧知の仲であるレイシュヴィーゼとミラをはじめ、もともと人当たりの良いアカツキを間に挟むことで、少年たちの間でもだいたいのコミュニケーションはとれていた。

 移動のしやすさから二列になって歩くなか、レイシュヴィーゼの隣を歩くのはリスティーユだった。


「まさか陸の上で人魚族に会えるなんて思いませんでした。」


「…なぜ、僕が人魚族だと?」

 唐突に振られた話題に、リスティーユは驚きを隠せない様子だ。

 それもそのはず、一般に広く知られている人魚族といえば尾ひれのついた女性で、陸に上がることなどほとんどないのだ。

 しかし稀に生まれる男子だけは例外で、思うままに尾ひれと足を使い分けることができるという。

 リスティーユはその希有な出生から、今現在も二本の足で大地を踏みしめることができるのであった。

「一度だけ、ラグナディアを訪れたことがあります。あなたの雰囲気が、あちらの方々のものとそっくりだったから。」


 ラグナディア。


 深い海の底にある故郷の名を聞いたリスティーユは、意図せずに口元を緩めた。

 桃色の珊瑚礁、色とりどりの熱帯魚。美しい尾ひれを揺らしながら優雅に青のなかを舞う母や姉たちの姿。

 単身で故郷を離れた彼にとっては、そのどれもが懐かしく焦がれるものであった。

 突如、前を行くラクトとベルの足が止まった。

 ここに核がある。

 直感したレイシュヴィーゼは、すっと前を見据えた。

 先頭のラクトが灯す光は、薄暗いなかで目を凝らしてやっと捉えられる不気味に動き回る影をうっすら照らし出している。

 ベルもそれに気づいているようで、剣の柄に手をかけて、いつでも抜刀する準備ができていた。後方からは、ミラとペアだったアカツキも前衛に落ち着く。


「…核というのは、生物でも成り得るのか?」


 訝しげに投げられた問に、魔法使いたちは一瞬だけ沈黙する。

「……成り得ます。不可能じゃない。」

「可能性はゼロに等しいんだけどねぇー…。」

「あの生物らしきものが核とは限りません…他に目星のつく物体が無い限りは、ですが。」

 リスティーユが締めくくったあと、嫌な沈黙が静かに走る。


「リスティ。この一帯で、どれくらい照明魔法を持続できますか。」


 蜂蜜色の魔女は静かに尋ねながら、全員に硬化魔法を施す。柔らかな光が瞬く間に煌めいて各々の身体に溶け込んでいった。

「最低でも百八十秒は確保してみせます。」

 眉を歪ませたアカツキは、気味が悪いと言わんばかりに前方を睨みつける。

「じゅうぶんだ。…しかし、変な臭いがしやがる。気をつけろ。俺たちが知ってるような動物じゃない。」

「得体の知れねェもんを相手にしろってか。上等じゃねえの。」

「あんたは、でしゃばんなくていいの。」

 じろりとベルを睨み付けてから、ミラもまた、リーゼに倣うように全員に反射神経強化魔法をかけた。

 いざとなれば不完全ながらも魔法壁を呼び出す心の準備も密かに済ませて。

「後ろは私が結界を張ります。破られても魔法壁があるので、気にせずに向かってください。」

「承知した。」

「おう。」

「了解だ。」


 リスティによって照らされた一帯の中央には、おぞましい大型の猿のような獣が在った。

 猿のようで猿はない。

 まず背丈がニ、三倍あるのは確かだし、四肢の先を飾る爪が鷲のように太く鋭く尖っている。彼らの知るものと目の前の生物は似ても似つかない風貌であった。

 血走った眼が驚いたように見開かれ、それからみるみるつり上がっていく。

 まだ十歳になったばかりの少年たちが未だかつて目にしたことのない獣は、白く柔らかな極上の餌を前に今にも飛びかからんと鼻息を荒くしていた。

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