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きみに、  作者: むんく
学院編.Ⅰ
5/25

4 『ウィグルの苛立ち』

2010・06・25改稿しました。

 一人の少年が、何処からともなく向けられた鋭い眼差しに身震いした頃。

 その場所からそう離れていない所で、別の少年たちもまた、核を目指して進んでいた。


 一人は若葉を連想させる緑色の髪を持つ小柄の少年。名をリスティーユ・ミーアと言う。

 実は先刻ラクトが見つけた、大きな魔力を纏う三人…彼の表現を借りるなら『当たり』に該当する者でもある。

 付き添うように歩いているのは、アカツキ・ヨイノ。少年ながら既に強面だが、明らかに気弱そうなリスティーユに怯えた様子が見られないのは、二人が出会った経緯が背景にあった。

 アカツキが暗闇のなかを山勘で歩き回っていたところ、彼はリスティーユが他の学生に絡まれている現場に偶然遭遇した。

 すかさず助け船を出したところ、然も当然かのように因縁をつけられてしまう。

 いくら見た目がか弱そうであっても、それを理由に寄って集ってどうこうするというのは良くない。

 顔中に古傷を残す迫力満点のアカツキの睨みは、渾身の説教よりもずっと効果的にダメージを与えた。瞬く間に退散していく生徒たちを追いかけるでもなく悠長に見送ったアカツキは、リスティーユに振り返った。

―――よかったら、俺と行かねえか―――


 そんな経緯ですっかり打ち解けた二人は淡々と核を目指す。

「リスティ。まだ先か?」

「もうちょっとです。…僕たち以外にも、魔法のからくりに気づいた人がいるみたい。」

「へえ。」

「あっちは大所帯ですね。四人です。」

 戦闘において武人に必要な気配を探るという行為とは違い、魔法使い達は独自の方法で相手の居場所を正確に知ることができる。

 自身の魔力を周囲に薄く伸ばして、物体をレーダーのように捜索するのだ。リスティーユは膨大な魔力を生かしたこの魔法が得意であった。


「どっちが早く辿り着けるか、競争だな。」


 にっと笑うアカツキに、リスティーユも楽しげに頷く。

 暗黒が大半を占める狭い視界のなかで、二人は兄弟のように仲良く連れだって先を急いだ。





 壁一面を占拠するほど巨大な鏡のなかには、学院に集められた新入生達が映し出されている。

 待合室と称された広間で待機している保護者は、食い入るように鏡を見つめていた。

 いま行われているのは、フールヴィエル学院の伝統ある『歓迎会』である。

 生徒全員が揃った瞬間に職員が空間操作魔法をかけ、予測不可能な状態に陥らせることで彼らの突発的な事態への対処方法を試すという少々強引にも思われる儀式。

 卒業生たちも決して口外を許されないこの行事は、学院の開校はまちまちであったが、創立時から変わらずに続けられてきた。

 四百年以上も続く歴史のなかで、核に辿り着いた子供たちはあまりに少ない。しかし、抜きん出た力を持つその生徒たちは例外無く後の世に名を残す偉業を成し遂げている。

 そんな事実を知る親たちは、我が子の心配をしながらも大きな期待を含んだ視線を鏡に注いでいた。

 …ただ一人を除いては。


 いらいらいら。ウィグル・フリーはかつてないほどに苛立っていた。

 仕えるべきレイシュヴィーゼが見えるのに、手の届かないところにいる。そのうえ見知らぬガキに斬りかかられかけた。

 あの瞬間、思わず剣に手をかけたが抜かなかった自分を絶賛したい。

 冷静になりきれていなかったなら、すぐにでも制止の手を力ずくで振り切ってでも主の元へ駆けていただろう。

 映像から確認した限り無傷と安心した瞬間に、主の盾として現れた得体の知れない男への不信感が募る。

 結果的にレイシュヴィーゼを救った剣士なのだが、そこは本来己のポジションだ。面白いわけがない。

 渦巻く感情を押し殺して、従者としては不本意ながらこれも主のためと息をついた。

 今、己にできることと言えば、傍に居られない代わりに穴があくほど彼女を見つめることだけ。

 その切なげな横顔は、周囲の婦人たちが黄色い悲鳴をあげるには充分に魅力的なものであったという。


「よーお、色男。久しぶりだなァ。」


 遠慮なく首に片腕を絡めてきたのは、つり上がった目尻が印象的な男だった。

 何の前触れもなく現れた見知った顔に、ウィグルは少し表情を引きつらせる。

「ビステルさん。………教官になっていたんですか。」

「おぉーう。『一扇』の面倒見ることになってんだ。…にしても、有力候補がこうもまとまって行動するなんて珍しいな。」

「有力候補?」

「あァ。ほら、あの厳ついやつが…」





「俺はアカツキ。で、こっちがリスティだ。」

 控えめにお辞儀したリスティーユに、一同は顔を綻ばせた。

 暗闇のなかでレイシュヴィーゼ達が接触したのは、同じく核の存在を確認していた二人組だ。

 ここで両者が合流したことで、レイシュヴィーゼ、ミラ、そしてリスティーユが揃ったことになる。

 彼らは今年度の新入生達のなかで三本の指に入る魔法の使い手たちだった。

 魔力の強さは、二つに分けて考えることができる。

 まず、魔力そのものの大小である。

 これは魔力を数字に置き換えたときの値によって判断される。

 数値が高ければ高いほど、大量に魔力が必要な大技を駆使できたり、広範囲への影響を期待できるのだ。

 もう一つは魔力の濃度である。

 先ほど述べた通り数値は魔法の及ぶ範囲に関係してくるが、濃度が薄いと威力の小さい魔法になってしまう。

 魔力がある程度の濃度を持たなければ、そもそも魔法すら使えない。

 その点、名のあがった三人は既に巨大なる魔力と濃度を兼ね備えていた。

 特に大きな魔力を持つのはリスティーユ。

 緻密な濃度のそれを宿しているはミラ。

 レイシュヴィーゼに至っては、両者と同等かそれ以上の可能性を秘めている節があるという見解が教師陣から出ているほどである。

「私はレイシュヴィーゼ。こちらがミラとラクト。………後ろにいるのがベルよ。」

 最後の一言に促されるように闇の奥から姿を表したベル。

 実は、あの頓着があってから付かず離れず後に続いていたのである。

 ミラ以外はその気配に気づいていたが、あえて口外せずにいた。

 二人が犬猿の仲だということを、レイシュヴィーゼとラクトは身を持って知らされていたからだ。

 どうにか二人の間を取り持つことができないだろうか。

 ひとつの難題にぶち当たった蜂蜜色の魔女と黒髪の剣士は、図ったかのようにため息をついた。

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