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きみに、  作者: むんく
学院編.Ⅰ
3/25

2 『暗闇』

2010・06・21改稿しました。

 長旅に疲れたレイシュヴィーゼを出迎えたのは、森に埋もれた小さな古城であった。

 城壁の表面は長い年月をかけてくすんでいる。

 だが決して人々の目にみすぼらしく映るでなく、その独特の風合いは、逆にある種の迫力を発していた。

 建国と同時に設立された四百十八年に及ぶ歴史は、ただ静かに今もその時を刻んでいた。




「あーら、やっと来たのね!待ちくたびれたわよー!!」


 大聖堂に立ち入ったレイシュヴィーゼを迎えたのは、その場に似つかわしくない少女の賑やかな声であった。

 自分を呼んだ人物は、嬉々として駆け寄り、首に腕を絡ませる。艶のある紅い髪に埋もれたレイシュヴィーゼは、謎の少女に反応できずにいた。


「ちょっとー。まさか忘れちゃったの~?あたしよっ!」

 

 ミラ。

 その名が鍵になるように、不意に懐かしい記憶がよみがえる。


 あれは、確か四歳の誕生日だった。

 大人ばかりのパーティーに疲れて部屋に帰ったら、同い年ほどの紅い髪の女の子が勝手に彼女の人形で遊んでいたのだ。

 初めは驚きこそしたが、すぐに打ち解けて日が暮れるまで共にいた。

 ミラが帰る時間になると、レイシュヴィーゼは駄々をこねて大人たちを困らせたものだ。

 その割に、あれっきり音信不通になり、今の今まで彼女の存在はすっかり忘れていたのだが。


「ミラ………?」

 

 半信半疑で呟いてみると、ミラは体を離してレイシュヴィーゼの肩を掴み、にっこりと笑った。

「久しぶり!何年ぶりかしらねー。すっかり可愛くなっちゃって!!」

 豊かな紅が揺れる。

 ミラ・セブンは誰にでも美しいと言わせる容姿をしていた。

 白い肌に、くっきりとした顔立ち。なんと言っても彼女のトレードマークととれる燃えるような紅髪は、男女問わず周囲の目をひく。つり気味の緑色の目は、レイシュヴィーゼただ一人を映していた。

「久しぶりね。ミラったら、全然変わってないわ。」

 昔に戻ったように笑い合った二人は、揃って机に向かう。

 しかし彼女らの視界は、突然闇に奪われた。誰かが悲鳴をあげる。声変わり前の少年の怒声が飛び交う。

 和気あいあいとしていた聖堂は、一瞬にして混乱のなかに放り込まれた。







 魔法だ。

 ラクト・アデルディは、自らを包んだ闇の正体を瞬時に暴いた。

 指先に炎を灯して辺りを観察するが、先ほどまで目の前にあった長椅子やテーブル類は一つも見当たらない。

 しかし複数の気配があることから、生徒個人を隔離する目的のものではないことが分かった。

 少し歩けば、何人かとすれ違うだろう。

 しかし、厄介だ。この手の空間操作魔法の解除には手間がかかる。

まず必要なのは、中等魔法を扱える人物だ。残念ながら自分はそこまで魔法を極めてはいない。

 招致された新入生のなかでそれほど熟練した魔法使いがいるとも考えにくい。

 ラクトは早々に諦めた。はずだったが、無意識に探った気配のなかで、三つも『当たり』に辿り着いた。内二つはかなり近い距離にいる。

「何もしないよりはマシか。」

 揺れる炎を指先から手のひらに移動させると、ラクトは僅かな希望を抱いて先の見えない暗闇を歩き始めたのだった。

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