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第98話 9月29日(金)授業参観
早朝 午前5時
町の静寂
夜明け前の祢古町。
すべての家から、人々が出てきた。
音もなく、整然と。
目指す場所は決まっている。
今日が、その日だから。
授業参観という名の集会 午後1時30分
外部からの最後の目撃証言
所用で祢古町を訪れた。
小学校で授業参観があると聞いていた。
しかし、校門の前で足が止まった。
異様な雰囲気が、学校全体を包んでいる。
中から、歌声が聞こえる。
いや、歌声というより...
「にゃー、にゃー、にゃー」
人間の声とも、猫の声ともつかない。
恐怖を感じて、踵を返した。
これ以上は、部外者が立ち入る場所ではない。
満月の時 午後6時
もはや記録者は存在しない
月が昇った。
大きな、金色の満月。
その瞬間、祢古町で何かが起きた。
しかし、それを記録する者はもういない。
ただ、月明かりの下で、
幸せそうな声だけが響いている。
「にゃー、にゃー、にゃー」
それは、千年の時を経て、
ようやく故郷に還った者たちの、
喜びの歌だった。




