第94話 9月25日(月)
朝の異常な登校 朝7時30分
見守り隊の証言
今朝の登校風景は、さらに異常だった。
子供たちが、学年別どころか、完全に一列で歩いてくる。
前の子の真後ろを、寸分違わず歩く。
足音もしない。
そして、誰も話さない。
でも、表情は明るい。
むしろ、期待に満ちている。
もうすぐ、何かが起きる。
その予感が、子供たちを包んでいる。
授業中の一斉行動 2時間目
参観した教育委員会の視点
学校訪問で、授業を参観。
2年生の国語の授業。
音読の場面で、異常事態を目撃。
全員が、完全に声を揃えて読んでいる。
一つの声にしか聞こえない。
それも、途中から言葉が変わった。
教科書の文章ではなく、別の何かを。
「つきが、でた、でた」 「つきが、でた」 「にゃー、にゃー、にゃー」
教師も止めない。
むしろ、一緒に唱和している。
これは、もはや授業ではない。
給食後の集団行動 午後1時
廊下を歩いていた用務員の視点
給食後、廊下で異様な光景を見た。
全校児童が、廊下に出ている。
そして、整然と並んで、体育館へ向かっている。
誰の指示でもない。
チャイムも鳴っていない。
でも、全員が同じタイミングで動き出した。
体育館では、何をするのか。
後をつけようとしたが、止めた。
まだ、私の時ではない。
宮田理恵の日記 夜
今日、最後の抵抗をした。
クラスの子供たちを「普通」に戻そうと、必死で授業をした。
算数の時間:「7×8は?」全員が即座に「56」と答えた。でも、声じゃない。心で答えたのが、直接伝わってきた。
国語の時間:音読をさせようとした。でも、子供たちは本を開かない。ただ、私を見つめている。
その瞳は、もう完全に丸かった。金色の光を宿して。
「先生、もういいよ」誰かが言った。「無理しなくていいよ」「先生も、本当はわかってるでしょ」
わかっている。もう、戻れないことを。戻る必要がないことを。
子供たちの瞳を見て、理解した。彼らは不幸じゃない。むしろ、解放されている。
そして、私も...私も、解放されたい。
明日、もう一度抵抗してみる。できるかな。したいかな。
わからない。




