第88話 9月19日(火)
朝の登校風景 朝7時45分
通勤途中のサラリーマンの視点
駅に向かう途中、小学生の列を見る。
いつ見ても、整然としている。
でも、今日は何かが違う。
歩くリズムが、完全に同期している。
右足、左足、右足、左足。
まるで、一人の人間が分身して歩いているような。
そして、靴音もしない。
こんなに大勢が歩いているのに。
思わず立ち止まって見てしまう。
美しい。不気味なほどに美しい。
授業参観の案内配布 午後
担任たちの視点
9月29日の授業参観の案内を配る。
子供たちに渡すと、全員が同じ反応。
目を輝かせて、にっこり笑う。
「29日...」
誰かがつぶやく。
「満月の日」
別の子が続ける。
そうか、29日は満月なのか。
でも、なぜみんな知っているのか。
カレンダーも見ていないのに。
放課後の教室 午後3時30分
掃除当番の子供たちの視点
放課後の掃除。
今日は、窓拭きの日。
みんなで窓を拭いていると、ふと手が止まる。
窓に、月が映っている。
まだ明るい空に、白い月。
全員で、じっと月を見つめる。
「もうすぐ」
誰かが言う。
「もうすぐ」
みんなが繰り返す。
何がもうすぐなのか。
でも、みんなわかっている。
言葉にできないけど、わかっている。




