第84話 9月15日（金）秋の遠足
出発前の集合 朝8時
引率教員の視点
秋の遠足。近くの森林公園へ。
集合時間の10分前には、全員集合完了。
しかも、自然にクラスごとに整列している。
点呼の必要なし。
全員がいることが、見ればわかる。
そして、持ち物も統一されている。
同じようなリュック、同じような水筒。
個性がない。でも、それが美しい。
森林公園での昼食 正午
引率補助の保護者の視点
お弁当の時間。
シートを広げて、グループごとに食事。
でも、会話がない。
黙々と食べている。
そして、お弁当の中身がみんな似ている。
おにぎり、卵焼き、魚。
まるで、申し合わせたように。
食べ終わる時間も同じ。
12時30分、全員が手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
一つの声のように響く。
帰路での出来事 午後2時
バスの運転手の視点
遠足の帰りのバス。
普通、子供たちは騒ぐものだ。
でも、このバスは静か。
全員が同じ方向を向いて座っている。
窓の外を見ているようで、見ていない。
もっと遠くの何かを見ている。
バックミラーで確認すると、全員の目が同じ方向を。
北東。学校の方向？いや、もっと先。
神社の方向か。
職員会議の非公式メモ 放課後
今日の職員会議の後、残った教師たちで話し合った。議事録には残せない、異常な内容。
「最近、みんな変ですよね」若い宮田先生が切り出した。
全員が頷いた。そして、誰かが提案した。「人間らしく振る舞う練習をしましょう」
可笑しな話だ。人間が、人間の練習をするなんて。
でも、全員真剣だった。
椅子に座る練習：背もたれを使うのが不自然に感じる。床に座りたくなる。
箸を使う練習：指が思うように動かない。手づかみの方が自然。
二足歩行の練習：廊下を歩く。でも、前傾姿勢になってしまう。四つ足の方が楽なのだ。
練習後、皆疲れ果てていた。人間でいることが、こんなに疲れるなんて。
もう、無理なのかもしれない。でも、まだ諦めたくない。まだ...
