第77話 9月8日(金)避難訓練
避難訓練 午前10時
教務主任の視点
火災想定の避難訓練。
放送を流す。
「訓練、訓練。火災が発生しました」
その瞬間、異様なことが起きた。
全校児童が、同時に立ち上がった。
放送を最後まで聞かずに、整然と移動を始める。
まるで、全員の頭の中に同じ指示が流れたかのように。
3分後、全員が校庭に整列完了。
通常の半分の時間。
しかも、点呼の必要がない。
全員がいることが、見ればわかる。
消防署員の視点
避難訓練の指導に来た。
子供たちの動きに、驚愕する。
完璧すぎる。機械のように正確。
「素晴らしい訓練ですね」
校長に言うが、校長も戸惑った顔をしている。
「練習は...していないんです」
それなのに、この統率。
講評で何を言えばいいのか。
「...皆さん、大変よくできました」
それしか言えなかった。
清掃時間 午後1時15分
用務員・小林の視点
清掃時間の見回り。
どの教室も、同じリズムで掃除している。
ほうきを掃く音が、シンクロしている。
雑巾を絞る音も、机を動かす音も。
まるで、一つの巨大な生き物が掃除をしているような。
そして、15分後。
全教室が、同時に掃除を終える。
チャイムが鳴る前に、全員が席に着いている。
時計を持っていないはずなのに。




