第67話 8月30日(水)
・防災無線の担当者 朝
今朝の放送中、奇妙なことが起きた。
「おはようございます。今日も暑い一日に...」
マイクに向かって話していると、外から大合唱が聞こえてきた。
「にゃー、にゃー、にゃー」
窓の外を見ると、多くの住民が立ち止まり、スピーカーに向かって声を合わせている。
放送に合わせて、歌っている?
いや、もっと原始的な何か...
・理髪店の店主 午後
今日だけで5人の客。
全員「短くしてください」と同じ注文。
そして、切っていて気づく。みんな同じ場所に、同じような傷がある。
首筋に、小さな引っかき傷。
「これは?」
「わからない...でも、痛くない」
みんな同じ答え。
そして、髪を切り終わると、全員が同じ方向を向いて「ありがとう」と言う。
北東の方向を向いて。
・学校だより準備会議 夕方
9月1日発行の学校だよりの準備。
教頭、教務主任、広報担当で集まったが...
誰も原稿を書いてこない。
「すみません、最近文章が...」
「私も、言葉がまとまらなくて」
「伝えたいことはあるんですが...」
結局、例年の文章を使い回すことに。
でも、みんな同じことを感じている。
もうすぐ、言葉なんて必要なくなる、と。




