第62話 8月25日(金)
・コンビニ店員の視点 午後
午後のシフトで気づいたこと。
客の買い物パターンが変わっている。
カップラーメンやスナック菓子が全然売れない。代わりに、魚の缶詰めが飛ぶように売れる。
ツナ缶、サバ缶、イワシ缶。棚が空になるのが早い。
そして、客たちの動きが妙だ。みんな同じような時間に来て、同じようなものを買っていく。
レジでの会話も減った。でも、不思議と何が欲しいかわかる。目を見れば。
...俺も、最近魚が食べたくて仕方ない。
・小学校用務員・小林の視点 夕方
夏休み中の学校は静かなはずだ。
でも、最近、夜に物音がする。
見回りに行くと、誰もいない。でも、確かに気配を感じる。
体育館の床に、小さな足跡。子供のものだ。でも、靴を履いていない。裸足の跡。
そして、その足跡が... 少し形が変だ。指の部分が短いような。
プールの更衣室にも痕跡がある。床に落ちている毛。銀色の、柔らかそうな毛。
子供の髪にしては、質感が違う。
報告すべきか迷うが、被害はない。むしろ、この気配は... 懐かしい?
・栗田周平の観察日記より 夜
8月ももうすぐ終わり。
猫の数、50匹を超えた。
でも、数えるのが難しくなってきた。みんな同じに見える。いや、違う。みんな違うけど、同じ何かを持っている。
仲間。
その言葉が、頭に浮かぶ。
今日、新しい発見。猫たちの中に、首輪をした猫がいた。「ポチ」と書かれた赤い首輪。
ポチって、犬の名前では?
でも、その猫の動きは... 確かに猫だ。でも、時々、犬のような仕草を見せる。
観察を続ける。でも、観察者と被観察者の境界が、曖昧になってきた気がする。




