第6話 封印された倉庫
祖母の手紙の通り、コンクリートで補強された基礎に真新しい瓦屋根。まるで、この倉庫だけは朽ちることを許されていないかのように。
扉には無数の札が貼られていた。
「封印」「開けるべからず」「立入厳禁」
古いものは江戸時代の、新しいものは令和の札。それぞれの時代の人々が、ここに何かを封じようとしてきた証。
そして最も新しい札:「令和6年1月15日 再封印 防衛省陸上自衛隊第32普通科連隊」
しかし、札は破られていた。内側から押し破ったような跡。
その破れ方を見て、悠真は理解した。これは脱出の跡だ。中にいた何かが、満を持して外に出た跡。
黒猫が扉の前に座り、悠真を見上げた。
「恐れることはない。これはあなたの運命」
悠真は深呼吸をして、扉に手をかけた。
冷たい金属の感触。しかし、微かに脈打っているような...まるで生き物の皮膚のような。
いや、これは扉ではない。繭だ。千年の時を経て、ようやく開かれる繭。
扉を開けると、薄暗い倉庫の中が見えた。
倉庫の中
天井まで届く棚が整然と並び、古文書、奇妙な器物、そして壁一面の写真。
すべて猫の写真だった。明治から令和まで、100年以上に渡る写真。しかし、写っている猫は同じように見えた。黒地に白い靴下模様、額に稲妻のような白い筋。
いや、違う。これは同一個体だ。百年以上生きている、番人。
そして、背景の人間たちの瞳が、皆微妙に縦長に...
写真の一枚一枚に、メモが添えられていた。
『明治23年 鈴木家の長女、還る』 『大正12年 祢古小学校の生徒15名、還る』 『昭和32年 地質調査隊の3名、還る』 『平成7年 阪神大震災の避難者の一部、還る』
還る。皆、還っていったのだ。写真の棚の向かい側の壁に、色褪せた絵馬が無数に掛けられていた。江戸時代から現代まで、様々な年代のものが混在している。
願い事は様々だが、共通するのは「還りたい」という言葉。
「人でいることに疲れました。月の下、本来の姿に還れますように」(明治二十三年)「子供が夜な夜な四つ足で歩きます。もう止めません。共に還ります」(大正十二年)「言葉を失いつつあります。でも怖くありません。にゃー」(昭和三十二年)「月読猫神様、千年の約束の時は近いですか」(平成七年)「名前を捨てます。個を捨てます。群れに還ります」(令和元年)
最新の絵馬は、つい最近のものだった。「2024年3月20日 もうすぐ満月 みんな待ってる はやく」文字は震え、最後は爪痕のような線になっていた。




