第52話 8月15日(火)
・町内会長の視点 夜
お盆だというのに、町が妙に静かだ。
例年なら、帰省した家族で賑わうはず。今年も帰省客はいる。でも、何かが違う。
夜回りをしていて気づいた。どの家も、同じような時間に明かりが消える。9時を過ぎると、急に静かになる。
そして、窓辺に人影。月を見ているのか?
今夜は満月に近い。確かにきれいだ。でも、これほど多くの家で...
翌朝、回覧板を回すついでに様子を聞いてみよう。
・栗田周平の視点 深夜
今夜も眠れない。
月がきれいすぎて、ずっと見ていたくなる。
部屋の窓から見える月。昨日より大きく見える。
体がむずむずする。特に手足の先。爪を切ったばかりなのに、もう伸びている気がする。
隣の部屋から、小さな物音。お母さんも起きているみたい。
廊下に出ると、お母さんも部屋から出てきた。
「眠れない?」 「うん...月が」 「私も」
二人でリビングに行った。お父さんもいた。家族みんな、月を見ていた。
言葉はいらなかった。ただ、同じものを見て、同じことを感じている。それがわかった。
・山田恵美(養護教諭)の個人的記録 深夜
自宅で、ふと気づいたことを書き留める。
最近、爪が伸びるのが早い。週に2回は切っている。
生徒たちの保健室利用も、内容が変わってきた。怪我や体調不良より、「爪切り貸してください」が増えている。
今日も3人。みんな「昨日切ったのに」と言う。
私も同じだ。
窓の外を見る。月が美しい。見ていると、安心する。
なぜだろう、この感覚は。




