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第47話 8月10日(木)

・商店街・八百屋の山本の視点 午前


最近、売り上げが落ちている。


いや、正確には野菜の売り上げが落ちている。特に肉じゃがやカレーに使うような野菜が売れない。


代わりに、大根おろしに使う大根や、焼き魚の添え物の野菜ばかり売れる。


「魚屋の海老原さんは忙しそうですね」


常連の奥さんに話しかけると、「そうなの、うちも最近魚ばかり」と。


おかしいな、この辺りは肉好きが多い地域だったはず。


・魚屋・海老原の視点 午前


忙しい。朝から晩まで忙しい。


8月に入ってから、急に客が増えた。それも、今まで来なかった客ばかり。


「鯖ある?」

「鰯は?」

「新鮮な秋刀魚は?」


みんな同じようなものを買っていく。刺身より、焼き魚用の魚。


在庫が追いつかない。明日は仕入れを倍にしよう。


でも、妙なんだ。客たちの目つきが。魚を見る目が、まるで...


いや、商売繁盛なんだから、余計なことは考えるな。


・図書館司書の視点 午後


夏休みに入って、子供たちの利用が増えている。それは毎年のこと。


でも、今年は借りられる本に偏りがある。


動物図鑑、特に猫のページがよく読まれている。月の写真集も人気だ。


今日も、5年生の栗田くんが来た。「猫の生態」という本を借りていく。もう3冊目だ。


「自由研究?」と聞くと、真剣な顔で頷いた。


他の子たちも似たような本を借りている。今年のトレンドなのかもしれない。


・栗田周平の観察日記の追記 夜


さっきの日記に書いたこと、読み返すと怖くなった。


「猫たちと話せるようになった」


これ、普通じゃない。僕は猫の言葉なんて勉強してない。なのに、理解できる。


もっと怖いのは、猫たちも僕を理解してること。今日、黒猫に「明日も来る?」って聞かれた。聞かれた、っていうか、目で伝わってきた。


これは、まずいことな気がする。でも、止められない。だって、楽しいから。みんなと一緒にいるのが、楽しいから。


人間の友達より、ずっと。

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