第4話 旧校舎への道
校長室を出ると、廊下の奥に別の扉があることに気づいた。「旧校舎」と書かれた古い木製の札。
扉を開けると、薄暗い渡り廊下。両側の窓は蔦で覆われ、緑色の光が差し込んでいる。
床には厚く埃が積もっているが、その上に新しい足跡があった。裸足の人間の足跡から始まり、次第に形を変えていく。
廊下の壁には、古い写真が飾られていた。
大正時代の卒業写真。しかし、その中の数人の生徒の顔が、墨で塗りつぶされている。写真の下には「大正12年 第15回卒業生」とある。
昭和初期の写真。また数人の顔が消されている。
そして昭和32年の写真。今度は教員の顔もいくつか黒く塗られている。
写真の裏を見ると、震える文字で書かれていた。
『還りし者たち 月の民へ』
旧校舎の地下
渡り廊下の突き当たりに、地下への階段があった。コンクリートではなく、古い石段。これは学校が建つ前からあったものだろう。
階段を降りると、ひんやりとした空気。しかし、不思議と恐怖は感じない。むしろ、懐かしさすら覚える。
地下は予想以上に広かった。天井の高い空間に、石の柱が等間隔で並んでいる。
そして、壁一面に刻まれた文字。いや、文字というより記号。月の満ち欠けを表す図形と、猫の姿を簡略化したような絵文字。
中央には、祭壇のような石の台。その上に、古い石版が置かれていた。
石版には、漢字と、その奇妙な文字が併記されている。まるでロゼッタストーンのように。
『千年前、我ら月より来たりてこの地に住まう。 人の姿を借りて世に紛れ、時を待つ。 百年ごとに若き者より還り始め、 千年にして大いなる帰還の時来たる。 恐れることなかれ、これぞ真の姿なり。』
そして、最後にこう刻まれていた。
『選ばれし者よ、汝もまた月の血を引く者なり。 留まりて記録者となるか、 還りて真の幸福を得るか、 選択は汝に委ねられたり。』
地下室の最奥に、小さな祭壇があった。そこには、一体の石像が安置されていた。
人間とも猫ともつかない、その中間の姿。立っているのか、四つ足なのかも曖昧。顔は人間のようで、でも瞳は縦長。体は毛に覆われているが、人間の衣服の名残も。
台座の銘文:『これぞ真の姿。人と獣の境など幻想なり。月の民は自在に形を変え、また一つに還る』
石像の足元には、新しい供物があった。人間の髪の毛と、猫の毛が編み込まれた、奇妙な組紐。まだ、湿っている。つい最近、誰かが供えたものだ。
悠真は、自分の手を見た。
爪が、少し伸びているような気がした。




