第39話 8月2日(水)
・小学校・教頭の見回り 午前10時
夏休み中の校舎点検。
職員室の机の上に、何通かの暑中見舞いが届いていた。子供たちからだ。
どのハガキにも、似たような絵が描かれている。月と猫。
「夏休み、楽しんでます」
「毎日、月を見ています」
「猫たちと仲良くなりました」
文面も似通っている。偶然だろうか?
それより気になるのは、字だ。みんな上手になっている。いや、上手というより、統一されている。似たような筆跡。
夏休みの間に、書道教室でも通っているのだろうか。
・町内の主婦たちの井戸端会議 午後3時
スーパーの前で、いつものメンバーが集まった。
「最近、子供たちが静かじゃない?」
「そうそう、うちの子も。夏休みなのに大人しくて」
「でも、不機嫌じゃないのよね」
「むしろ、満足そうというか」
皆、同じようなことを感じている。
「食事の好みも変わって」
「うちも!魚ばかり食べたがる」
「肉料理を作ると、残すのよ」
話しているうちに、全員が同じ体験をしていることに気づく。
でも、誰も深刻には捉えない。むしろ、健康的でいいじゃない、と笑い合う。
・祢古タイムス(地方紙)記者の取材メモ 夕方
夏の特集記事の取材で町を回る。
テーマは「夏休みの子供たち」。
でも、取材が進まない。公園に行っても、子供たちが遊んでいない。
いや、いることはいる。でも、「遊んで」いない。
みんな、静かに座っている。猫を見ている子。空を見上げている子。ただ、じっとしている子。
写真を撮ろうとすると、全員がこちらを向く。同じタイミングで。
「...すみません、撮影は遠慮します」
なぜか、そう言ってしまった。
記事は...別の町で取材しよう。




