第37話 7月31日(月)7月最後の日
・朝 町の様子
7月最後の日。 町全体が、何かを待っているような雰囲気。
商店街では、魚屋以外の店が次々と方向転換を発表。 「8月から、魚も扱います」 肉屋も八百屋も、みんな同じ決断。
住民たちは、それを自然に受け入れる。 むしろ、待っていたかのように。
・栗田周平の観察日記 最終日
7月の観察を終える。 分かったこと:
猫は毎日増えている
全員が同じ行動をとる
月と関係がありそう
人が猫になることがある(信じられないけど)
みんな、それを自然に受け入れている
そして、自分の変化:
朝6時に自然に起きる
猫の「会話」がわかる
月を見たくなる
爪が速く伸びる
魚が食べたくなる
これは病気? いや、違う気がする。 もっと自然な、当たり前の変化。
明日から8月。 もっと大きな変化が起きる予感がする。 それが怖いような、楽しみなような。
・夜 各家庭
7月最後の夜。 多くの家で、家族が窓辺に集まる。
「8月は、もっと月がきれいね」 「うん、27日は満月だ」 「楽しみね」 「うん、とても」
会話は普通。 でも、その目は人間の目じゃない。 金色に光り、縦長の瞳孔が見え隠れする。
でも、誰も気にしない。 家族みんなが同じだから。 町のみんなが同じだから。
これでいい。 これが正しい。 そう感じている。
7月が静かに終わる。 でも、これは終わりじゃない。 始まりに過ぎない。
8月は、もっと素晴らしいことが起きる。 みんな、それを知っている。 血が、細胞が、魂が知っている。
月の光が、窓から差し込む。 それに応えるように、 町中から小さな歌声が響く。
「にゃー、にゃー」
それは子守歌のよう。 千年の眠りから目覚める、母への子守歌。




