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第36話 7月30日(日)祭りの翌日
・朝 中央公園
昨夜の祭りの片付けが始まる。 でも、作業する人たちの様子がおかしい。
全員、同じような歩き方をしている。 爪先から着地し、踵は最後に。 まるで、肉球で歩くような。
「昨日は楽しかったね」
「ああ、特に月が出てから」
「来月の満月が楽しみだ」
会話は普通。 でも、視線がときどき宙を見る。 まるで、見えない何かを追っているような。
・栗田周平の観察日記 特別編
今朝、衝撃的なものを見た。
猫の中に、浴衣を着た猫がいた。 子供用の浴衣。 首輪には「山本ひなた」のリボン。
山本ひなたは、同じクラスの女の子。 昨日の祭りにも来ていたはず。
でも、お母さんに聞いたら、 「ひなたちゃん?誰?」 と首を傾げる。
クラス名簿を見せても思い出せない。 まるで、最初からいなかったみたいに。
信じられない。 でも、三毛猫の目は確かにひなたちゃんの目だった。 優しくて、賢そうで。
「にゃー」 小さく鳴いた声が、 「周平くん」 と聞こえた気がした。




