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この町のネコ、やっぱりおかしい ー市立祢古小学校記録集ー  作者: 大西さん
第一部 静かなる予兆(2023年7月)
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第35話 7月29日(土)夏祭り

・昼 最終準備


祭りの準備をする大人たちの動きが、妙に揃っている。 提灯を吊るす高さ、紐の結び方、すべてが統一されている。


「息が合ってるね」 誰かが言う。 みんな頷く。 でも、練習したわけじゃない。


子供たちも手伝いに来ている。 その動きは、さらに完璧。 まるで、毎年やっているかのように手際がいい。


・夕方 祭りの開始


19時、祭りが始まった。 人出は例年通り。 でも、雰囲気が違う。


みんな、どこか同じ方向を気にしている。 東の空。まだ月は見えない時間なのに。


屋台の売れ行きも偏っている。 焼き魚、イカ焼き、たこ焼き...魚介類ばかり売れる。 焼き鳥や焼きそばは売れ残る。


・夜 盆踊り


20時、盆踊りが始まる。 太鼓の音が響く。


でも、リズムが違う。 「ドンドン」という音が、次第に変化していく。 高い音と低い音が混ざり、複雑なリズムに。


踊る人たちの動きも変わっていく。 手の動きが、獣が前足を動かすような。 足の運びが、四つ足で歩くような。


でも、誰も違和感を口にしない。 むしろ、これが正しい踊りだと感じている。


・月の出


21時過ぎ、東の空に月が昇った。 今夜は満月に近い。


その瞬間、祭りの雰囲気が変わった。 音楽が止まり、全員が月を見上げる。


そして、どこからか歌が始まった。 「にゃー、にゃー」 それは人間の声とも、猫の声ともつかない。


一人、また一人と声が加わる。 子供も大人も、みんなが歌い始める。


提灯の明かりが揺れる。 その影が、壁に猫の形を作る。 風もないのに、影が踊る。


「美しい」 誰かがつぶやく。 みんなが頷く。


この瞬間、町は一つになった。 人間と猫の境界が曖昧になった。 でも、誰も恐れない。 むしろ、心地いい。

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