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この町のネコ、やっぱりおかしい ー市立祢古小学校記録集ー  作者: 大西さん
第一部 静かなる予兆(2023年7月)
32/169

第32話 7月25日(火)26日(水)

・栗田周平の観察日記 5日目


重要な発見! 猫たちが集まってくる瞬間を見た。


朝5時45分、まだ猫はいない。

5時50分、四方から歩いてくる。 みんな同じ速度で。

5時59分45秒、全員が定位置につく。

6時ちょうど、全員が北東を向く。


まるで時計を持っているみたい。 いや、体の中に時計があるのかも。


そして気づいた。 自分も、6時ちょうどに公園に着いていた。 計ったわけじゃないのに。


・商店街の異変


魚屋の海老原が、仕入れを増やした。 「最近、よく売れるから」


でも、町の人口は変わっていない。 なのに、消費量は1.5倍に。


肉屋の田中は、ため息をつく。 「うちは逆だよ。肉が売れない」


八百屋の山田も同じ。 「野菜も売れ行きが悪い。特に根菜類」


町の食生活が、急激に変化している。 でも、誰もそれを問題視しない。


■7月26日(水)


・保健センターの記録


町の保健師がデータをまとめている。


7月の健康相談:

爪の異常成長:45件

夜間覚醒(外を見る):38件

食習慣の変化:52件

他人の考えがわかる:23件


「集団ヒステリーかしら」 でも、相談に来る人たちは健康そのもの。 むしろ、以前より元気。


困ったことに、症状を「治したい」という人がいない。 みんな「これでいい」と言う。


・夜 各家庭


多くの家で、同じ会話。


「最近、よく月を見るね」 「うん、きれいだから」 「でも、毎晩は...」 「見たくなるの」


そして、家族全員で窓辺に立つ。 月を見上げる。 言葉を交わさずに、ただ見つめる。


隣の家も、その隣も。 町中が、月を見上げている。

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