第32話 7月25日(火)26日(水)
・栗田周平の観察日記 5日目
重要な発見! 猫たちが集まってくる瞬間を見た。
朝5時45分、まだ猫はいない。
5時50分、四方から歩いてくる。 みんな同じ速度で。
5時59分45秒、全員が定位置につく。
6時ちょうど、全員が北東を向く。
まるで時計を持っているみたい。 いや、体の中に時計があるのかも。
そして気づいた。 自分も、6時ちょうどに公園に着いていた。 計ったわけじゃないのに。
・商店街の異変
魚屋の海老原が、仕入れを増やした。 「最近、よく売れるから」
でも、町の人口は変わっていない。 なのに、消費量は1.5倍に。
肉屋の田中は、ため息をつく。 「うちは逆だよ。肉が売れない」
八百屋の山田も同じ。 「野菜も売れ行きが悪い。特に根菜類」
町の食生活が、急激に変化している。 でも、誰もそれを問題視しない。
■7月26日(水)
・保健センターの記録
町の保健師がデータをまとめている。
7月の健康相談:
爪の異常成長:45件
夜間覚醒(外を見る):38件
食習慣の変化:52件
他人の考えがわかる:23件
「集団ヒステリーかしら」 でも、相談に来る人たちは健康そのもの。 むしろ、以前より元気。
困ったことに、症状を「治したい」という人がいない。 みんな「これでいい」と言う。
・夜 各家庭
多くの家で、同じ会話。
「最近、よく月を見るね」 「うん、きれいだから」 「でも、毎晩は...」 「見たくなるの」
そして、家族全員で窓辺に立つ。 月を見上げる。 言葉を交わさずに、ただ見つめる。
隣の家も、その隣も。 町中が、月を見上げている。




