第31話 7月24日(月)プール開放初日
・朝9時45分 プールへの道
プール開放は10時から。 でも、子供たちは9時45分に集まり始めた。
しかも、バラバラに来るのではない。 5〜6人のグループが、同じタイミングで到着する。 まるで、待ち合わせをしたかのように。
「おはよう」 挨拶の声が重なる。 そして、全員が同じ場所に集まる。 プールサイドの、日陰になる場所に。
・朝10時 プール開放
「では、準備運動から始めましょう」 監視員の保護者が声をかける。
子供たちは、すでに準備運動の隊形に並んでいた。 等間隔で、きれいに整列して。
準備運動が始まる。 腕を回す、脚を伸ばす、首を回す。 23人の動きが、完全に同期している。
保護者は、その光景に息を呑む。 美しい。でも、少し不気味でもある。
・朝10時15分 入水
「では、シャワーを浴びて入水してください」
子供たちは整然とシャワーへ向かう。 一列に並び、順番にシャワーを浴びる。 その時間も、みんな同じ。きっかり30秒。
そして、プールサイドに並ぶ。 監視員が笛を吹く前に、 全員が入水の準備姿勢を取っている。
「ピッ」 笛の音と同時に、全員が入水。 水しぶきが、一つの大きな波紋を作る。
・朝10時30分 泳ぎの異変
子供たちが泳ぎ始めて、監視員たちは気づいた。 全員の泳ぎ方が、異様に似ている。
クロールの腕の回し方、 キックのリズム、 呼吸のタイミング。
まるで、水泳選手のように統一されている。 しかも、全員が同じ速度で泳ぐ。 速すぎず、遅すぎず、一定のペースで。
・朝11時 休憩時間
「休憩でーす」 監視員の声で、子供たちは一斉にプールから上がる。
そして、全員が同じ場所に集まる。 プールサイドの東側。 座って、空を見上げている。
「暑いから日陰に行ったら?」 監視員が声をかけても、 「ここがいい」 と全員が答える。
東の空を見上げたまま、じっと座っている。 まるで、何かを待っているかのように。
・朝11時15分 再開
休憩が終わり、また泳ぎ始める。 今度は、全員が同じコースを回り始めた。
時計回りに、ゆっくりと。 まるで、儀式のように。
水の中でも、隊列は崩れない。 等間隔を保ったまま、 同じ速度で、 同じリズムで泳ぎ続ける。
監視員たちは、もはや注意する気も起きない。 危険はない。 むしろ、これほど統制の取れた泳ぎは見たことがない。




