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この町のネコ、やっぱりおかしい ー市立祢古小学校記録集ー  作者: 大西さん
第一部 静かなる予兆(2023年7月)
30/169

第30話 7月23日(日)

・朝5時30分 さらに早い目覚め


周平の目覚めが、また早くなった。 5時30分きっかり。 目覚まし時計を見る必要もない。 体が時間を知っている。


窓の外を見ると、向かいの家でも明かりがつく。 そして、その隣でも。 町全体が、同じリズムで目覚め始めている。


・朝6時 中央公園 円の変化


今日の猫は25匹。 そして、配置が変わっていた。


内側の円:古くからいる猫たち(15匹)

外側の円:新しく加わった猫たち(10匹)


二重の円。 階層があるようで、でも上下関係ではない。

もっと自然な、有機的な構造。


人間たちも、自然に三重目の円を作る。

誰も指示していないのに、 完璧な同心円が出来上がる。


・朝6時30分 周平の気づき


『観察日記 3日目』


猫たちを観察していて、重要なことに気づいた。 呼吸だけでなく、まばたきのタイミングも同じだ。


15秒に1回、全員が同時にまばたきをする。 人間たちも、それに引き込まれていく。 自分も、気がつけば同じタイミングで...


そして、今日は「声」が聞こえた。 実際の声ではない。 頭の中に直接響くような、低い振動。


「もうすぐ」 「準備」 「月」


断片的な概念が、流れ込んでくる。


・朝7時 参加者たちの会話


解散した後、公園の出口で数人が立ち話。


「毎朝、来ちゃいますね」 「ええ、なんだか来たくなって」 「子供も喜んでるし」 「私も...安心するんです」


でも、何に安心するのか、誰も説明できない。 ただ、ここに来ると「正しい」感じがする。 家族と一緒にいるような安心感。


・午後1時 商店街の変化


日曜の商店街。 いつもなら家族連れで賑わうはずが、今日は静か。


開いている店も少ない。 多くの店主が、「体調不良」で休業。


でも、本当は体調不良ではない。 朝の公園にいた人たちは知っている。 店主たちも、朝の集まりに参加していたことを。


・午後3時 公園での再集合


昼過ぎ、また人が集まり始めた。 今度は、子供たちが中心。


また円を作って座る。 今度は遊具のある広場で。 ブランコも滑り台も使わず、ただ座っている。


通りかかった人が聞く。 「何してるの?」 「待ってる」 「何を?」 「...わからない。でも、待ってる」


子供たちの目は、みんな同じ方向を向いている。 東の空。月が昇る方向。


・夕方6時 周平の家


夕食の時間。 今日も魚料理。


「お母さん、最近魚ばっかりだね」 「そう?でも、食べたくない?」 「ううん、魚がいい」


家族の会話は普通。 でも、食べ方が変わってきている。


箸の持ち方は同じなのに、 魚の身を取る動作が、妙に上手い。 骨に身を残さず、きれいに食べる。


そして、食事中の沈黙が心地いい。 言葉を交わさなくても、 家族の気持ちが伝わってくるような。


・夜8時 月の出


今夜は三日月。 細い月が、東の空に昇る。


周平は窓辺に立つ。 向かいの家でも、隣の家でも、 同じように窓辺に人影が見える。


みんな、月を見ている。 細い月なのに、なぜか強く惹かれる。


そして、また「声」が聞こえる。 「29日」 「満ちる時」 「集まる時」


7月29日。 その日付が、頭に焼き付く。

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