第29話 7月22日(土)
・朝5時40分 町の各所
昨日より早く、町のあちこちで人が動き始める。 窓が開き、 カーテンが引かれ、 玄関のドアが開く。
その音が、町中で連鎖していく。 まるで、ドミノ倒しのように。
道に出ると、あちこちから人が現れる。 挨拶を交わしながら、みんな同じ方向へ。 中央公園へ。
・朝6時 中央公園
昨日より人が多い。 30人は超えているだろうか。 そして、猫も20匹に増えている。
新しく来た人たちも、 すぐに輪の中に溶け込んでいく。 まるで、ずっと前からここにいたかのように。
今日は東を向いている。 朝日が昇る方向。 でも、太陽を見ているわけではない。 もっと遠く、もっと高い何かを見ている。
・朝6時30分 栗田周平の観察
『観察日記 2日目』
猫の数:20匹(5匹増加)
人間:約30人
配置:二重の円(昨日と同じ)
向いている方向:東
新しく来た猫たちも、すぐに同じ行動を始めた。 教えられたわけでもないのに、 他の猫たちと完璧に同期している。
そして気づいたこと。 猫たちの瞳孔が、全員同じ大きさ。 光の加減は関係なく、一定の大きさを保っている。
・午後2時 町の図書館
夏休みの図書館は、子供たちでいっぱいだ。 でも、今年は様子が違う。
みんな、同じコーナーに集まっている。 月の本、動物の本、自然科学の本。
そして、読む姿勢が揃っている。 背筋の角度、 本を持つ高さ、 ページをめくるタイミング。
まるで、全員が同じ本を読んでいるかのよう。
・午後2時30分 司書の観察
司書の田村は、子供たちの様子を見ている。 不思議な光景だが、邪魔をする気にはなれない。
むしろ、美しいとすら思う。 静かで、整然として、調和が取れている。
貸出カウンターに来る子供たち。 みんな、似たような本を選ぶ。 そして、同じページに興味を示す。
「7月29日って、何かある日?」 つい聞いてしまう。
子供たちは顔を見合わせて、 「満月」 と答える。
・夕方5時 各家庭
夕食の準備の時間。 町中の家から、同じような匂いが漂う。
焼き魚の匂い。 味噌汁の匂い。 ご飯の炊ける匂い。
メニューが似通っているだけでなく、 調理を始める時間も同じらしい。
窓を開けると、 隣からも、その隣からも、 同じ匂いが流れてくる。




