表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この町のネコ、やっぱりおかしい ー市立祢古小学校記録集ー  作者: 大西さん
第一部 静かなる予兆(2023年7月)
26/169

第26話 7月19日(水)給食最終日

・朝8時 教室の様子


どの教室も、いつもより静かだ。 でも、沈んでいるわけではない。 むしろ、何かを待っているような静けさ。


子供たちは席に着いて、じっと前を見ている。 時々、誰かが窓の外を見る。 すると、連鎖するように他の子も窓を見る。


「どうしたの?」 担任が聞いても、 「なんとなく」 「もうすぐ」 曖昧な答えしか返ってこない。


・朝8時30分 職員朝礼


「明日で1学期も終わりですね」 田中校長が話す。


教職員たちは頷くが、その表情は複雑だ。 安堵と、不安と、期待が入り混じっている。


「夏休み中も、子供たちの見守りをお願いします」 「特に、月の観察をする子が多いようなので」


なぜ月の話が出たのか、校長自身も分からない。 でも、教職員たちは当然のように頷く。


・給食時間 12時20分 配膳前


給食当番が配膳の準備をしている。 その動きを見て、担任たちは息を呑む。


6人の当番が、言葉を交わすことなく動いている。 でも、完璧に連携が取れている。


お盆を配る子、 箸を並べる子、 おかずを盛る子。


それぞれが、相手の動きを予測して動いている。 いや、予測というより、知っているかのように。


・給食時間 12時30分 最後の「いただきます」


「1学期最後の給食です。感謝していただきましょう」 放送が流れる。


「いただきます」 全校の声が一つになる。 その声は、校舎を越えて町にも響くほど大きい。


サバの味噌煮を口に運ぶ子供たち。 全員が、同じタイミングで箸を持ち、 同じタイミングで口に運ぶ。


その光景を見て、教師たちは理解する。 もう、個々の子供ではない。 一つの大きな存在の一部になりつつある。


・給食時間 12時50分 片付け


食べ終わるタイミングも、完全に一致。 最後の一粒のご飯を食べ終える瞬間まで、同期している。


「ごちそうさまでした」 また声が重なる。


片付けの動きも、流れるように美しい。 食器を重ねる音が、カチャンと一つだけ。 82人分の食器とは思えない。


そして、誰も指摘しなくなった牛乳の山。 もはや、飲まないことが「普通」になっている。


・5時間目 学期末大掃除


「今日は念入りに掃除しましょう」 担任たちが言うまでもなく、子供たちは動き始めていた。


バケツを取りに行く子、 雑巾を用意する子、 机を動かし始める子。


役割分担は、誰も決めていない。 でも、全員が自分のすべきことを理解している。


・大掃除 続き


窓拭きをする子供たちの動きが、シンクロしている。 右から左へ、円を描くように拭いていく。 10人いても、動きは一つ。


床を拭く子たちも同じ。 横一列に並んで、同じ速度で前進していく。 まるで、田植えをするような規則正しさ。


「きれいになったね」 担任が言うと、子供たちは満足そうに頷く。 でも、その満足感も全員で共有されている。


・放課後 3時30分 最後の職員会議


「明日の終業式の確認です」 教頭が資料を配る。


でも、教師たちはすでに内容を知っているかのよう。 資料を見る前から、頷いている人もいる。


「8時45分から体育館で」 「児童は8時30分までに登校」 「式後、教室で通知表配布」


確認事項を読み上げる教頭の声に、 他の教師たちが小さく唱和している。 意識してではない。 自然に、口が動いてしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ