第21話 7月14日(金)
・朝7時30分 通学路
金曜日の朝。一週間の疲れが出る頃のはずだが、 子供たちの足取りは軽い。 いや、軽いというより、統一されている。
見守りボランティアの田中老人が、三叉路に立っている。 東から来る子供たち、西から来る子供たち、北から来る子供たち。 それぞれ別の場所から来るのに、到着時刻がほぼ同じ。
7時45分。 三方向から来た子供たちが、交差点でぴったり合流する。
「おはようございます」 挨拶の声が、見事に重なる。
・朝7時45分 合流地点
子供たちの服装を見て、田中老人は気づく。 色や柄は違うのに、なぜか全体の印象が似ている。
シャツの着方、 カバンの持ち方、 髪の分け方。
個性があるようで、ない。 統一感があるようで、それも違う。 もっと深い部分で、何かを共有している感じ。
「今日も元気だね」 老人が声をかけると、全員が同時に振り返る。 「はい!」 また、声が一つになる。
・朝8時 昇降口
各学年の子供たちが、昇降口で上履きに履き替える。 その動作を見ていた用務員の小林は、鳥肌が立った。
1年生から6年生まで、 靴を脱ぐタイミング、 上履きを履くタイミング、 靴箱に入れる動作。
すべてが、同じリズムで行われている。 まるで、見えない指揮者がタクトを振っているかのように。
・個人面談最終日 午後1時
養護教諭の山田恵美が、面談のまとめをしている。 5日間で聞いた保護者の相談内容。
共通する症状:
夜中の覚醒(午前3時頃):43件
爪の異常成長:51件
食の変化(魚中心):48件
他者との奇妙な共感:35件
数字を見つめながら、山田は考える。 これは偶然では説明できない。 かといって、病気でもない。
むしろ、進化? いや、そんなはずは...
・午後1時30分 保健室での気づき
面談記録を整理していて、山田はあることに気づいた。 保護者たちの様子も、子供たちと似てきている。
面談に来た母親たちの爪が、みんな少し長い。 そして、微妙に曲がっている。 父親たちの目にも、時々金色の光が宿る。
家族全体が、同じ方向に変化している。 いや、町全体が...
山田は、自分の手を見る。 今朝切ったばかりの爪が、もう伸びている。
・午後2時 最後の面談
「先生も、月を見ますか?」 最後の保護者が、唐突に聞いてきた。
「え?」 「いえ、なんとなく...先生も見てそうだなって」
確かに、最近よく月を見ている。 新月でも、曇りの日でも、なぜか月の存在を感じる。
「ええ、まあ...」 「やっぱり。私たちと同じですね」
保護者は安心したような表情を見せる。 仲間を見つけた、という表情。
・放課後 職員室 午後4時
「これで面談週間も終わりですね」 教師たちが、ほっとした表情で話している。
「同じような相談ばかりでしたね」
「でも、深刻な問題じゃないみたいだし」
「むしろ、みんな健康的」
そう言いながら、教師たちは窓の外を見る。 西の空が、夕焼けに染まっている。 でも、視線は東の空を探している。
まだ見えない月を。




