第17話 7月10日(月)個人面談週間
・午後1時 3年2組の教室
田中みおの母親が、担任と向かい合って座っている。 教室は静かで、廊下から他のクラスの声が微かに聞こえる。
「みおさんは、とても落ち着いて学習に取り組んでいます」 担任が切り出す。 「そうですか、よかった」
でも、母親の表情は晴れない。 何か相談したいことがあるらしい。
「実は...」 母親が言いかけて、ためらう。 「最近、みおが夜中に起きるんです」
・午後1時10分 相談の詳細
「夜中に?」 「ええ、決まって午前3時頃。窓の外をじっと見て」
担任は、メモを取りながら聞いている。 実は、他の保護者からも似たような相談を受けていた。
「何を見ているか、聞きましたか?」 「月だって言うんです。でも、カーテン越しだし、そもそも月が出てない日も」
母親の声に、不安が滲む。 でも、それは子供を心配する不安だけではない。 自分も最近、同じ時刻に目が覚めることへの不安も。
・午後1時20分 他の症状
「それから、爪が...」 母親は自分の手を見る。 「みおもですけど、私も最近、爪の伸びが速くて」
確かに、母親の爪も少し長い。 そして、微妙に曲がっているような。
「あと、食事の好みも変わってきて」 「みおさんが?」 「家族みんなです。魚ばかり食べたがって」
担任は頷きながら聞いている。 実は、担任自身も最近は魚ばかり食べている。 牛乳は、もう1ヶ月は飲んでいない。
・午後2時 別の保護者(山田さん)
「うちの子も、夜中に起きるんです」 山田太郎の母親が、同じような相談をしている。
「3時頃ですか?」 「え、ええ、そうです。なぜ分かるんですか?」 「実は、他の保護者の方からも...」
二人は顔を見合わせる。 偶然にしては、一致しすぎている。
「それと、最近子供同士で妙に息が合っていて」 「息が合う?」 「会話しなくても、何を考えているか分かるみたいなんです」
・午後2時30分 次の保護者(鈴木さん)
3人目の保護者。 相談内容は、ほぼ同じ。
夜中の3時に起きる
月を見ている(見えなくても)
爪の異常な成長
魚食への偏り
子供同士の奇妙な連携
「まるで、申し合わせたみたいですね」 保護者が苦笑する。 でも、その笑いは固い。
担任も困惑している。 個別の問題なら対処法もあるが、 これは集団で起きている現象だ。
・午後4時 職員室での情報交換
「どうでした?面談」 他の担任たちと情報交換。
「うちも同じような相談ばかりで」 「夜中に起きる子が多いですね」 「爪の話も出ました」 「食事の偏りも」
養護教諭の山田が、データをまとめている。 「これ、見てください」
表には、各クラスの相談内容が整理されている。 8割以上の家庭から、同じような相談が出ている。
「これは...集団ヒステリー?」 誰かがつぶやく。
「でも、みんな健康そのものなんですよね」 「むしろ、以前より元気」 「成績も上がってる」
説明がつかない。 でも、確実に何かが起きている。




