第161話 12月8日(金)
雑貨店主の記録に追加 朝
もう、限界が近い。
今朝、階段を降りる時、気がついた。四つ足で降りていた。手をついて、自然に、獣のように。
慌てて立ち上がったが、膝が悲鳴を上げた。もう、二足歩行は体に合わない。骨格が、筋肉が、拒否している。
洗面所の鏡を、恐る恐る見た。瞳が、完全に金色に光っていた。耳も、少し上に移動している。
でも...
醜いとは思わなかった。むしろ、美しいと感じた。本来の姿に近づいている、と。
「まだ人間でいたい」そう呟いてみた。
でも、声に出たのは、「にゃ...だ、にんげんで...にゃ」
もう、言葉も危うい。
でも、怖くない。むしろ、安らぎを感じる。もうすぐ、楽になれる。
明日、店を閉めよう。そして...
インフルエンサーの襲来 午後
最後の訪問者たち
SNSで話題になったらしい。 「最後の人間が住む店」として。
午後、若者が3人来た。 カメラを回している。
「やばくない?マジで誰もいない」 「でも、この店だけ開いてる」 「店主さん、インタビューいいですか?」
断った。 でも、勝手に撮影を続ける。
「祢古町、行ってみない?」
「廃墟探索的な」
「いいね、バズるよ」
止めなかった。 もう、止める意味もない。
彼らは車で祢古町へ向かった。
1時間後、車だけが戻ってきた。 無人で。 エンジンをかけたまま、ライトをつけたまま。
シートには、3人分の服と、大量の毛。




