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この町のネコ、やっぱりおかしい ー市立祢古小学校記録集ー  作者: 大西さん
第一部 静かなる予兆(2023年7月)
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第12話 7月4日(火)

・朝7時45分 通学路の交差点


見守りボランティアの老人が、いつもの場所に立っている。 子供たちが、各方面から歩いてくる。


最初に気づいたのは、足音だった。 タッ、タッ、タッ... 複数の子供たちの足音が、一つのリズムを刻んでいる。


東から来る5人組。 北から来る6人組。 西から来る4人組。


別々のグループなのに、歩調が完全に同じ。 まるで、見えない太鼓に合わせて行進しているかのよう。


・朝7時50分 横断歩道


信号が赤になる。 三つのグループが、横断歩道の前で合流する。


「おはようございます」 挨拶を交わす子供たち。 でも、その挨拶も妙に形式的で、全員が同じトーンで話す。


信号待ちの間、15人の子供たちが一列に並ぶ。 誰が指示したわけでもないのに、 身長順でもなく、学年順でもなく、 でも何らかの規則に従っているかのような並び方。


信号が青になる。 全員が同時に一歩を踏み出す。 右足から。


・朝7時55分 学校の門


門の前で、さらに多くの子供たちと合流する。 総勢40人ほどになった集団。


その全員が、同じリズムで歩いている。 右足、左足、右足、左足。 腕の振りも同じ。 歩幅も同じ。


「最近の子は、本当に行儀がいいねぇ」 見守りの老人がつぶやく。


でも、これは行儀の良さとは違う。 もっと、本能的な何か。 群れで行動する動物のような...


老人は首を振る。 考えすぎだ。きっと、偶然だ。


・保健室 午前10時


養護教諭の山田恵美が、来室簿をつけている。 朝から、爪切りを求める子供が列を作っている。


「先生、また伸びちゃった」 3年生の女の子が手を見せる。


確かに伸びている。 3日前に切ったばかりだというのに、もう5ミリ以上。


「成長期ね」 山田は微笑みながら爪切りを手に取る。


でも、内心では困惑している。 通常、子供の爪は1日0.1ミリ程度しか伸びない。 これは、その10倍以上の速度だ。


・保健室 午前10時10分


爪を切りながら、山田は気づく。 この子の爪の形が、少し変わっている。


通常より厚みがあり、 先端に向かって微妙にカーブしている。 そして、やけに硬い。


「痛くない?」 「ううん、全然」


パチン、パチンと爪を切る音が保健室に響く。 切った爪を見ると、通常の爪より透明度が高い。 まるで、動物の爪のような...


・保健室 午前10時20分


「次の人、どうぞ」


入ってきたのは5年生の男の子。 「爪切り、お願いします」


この子も、3日前に切ったばかり。 記録を確認すると、今週だけで7人目。 先週も、似たような人数だった。


「みんな、よく伸びるのね」 「うん、朝起きたらもう長くて」 「カルシウム、たくさん摂ってる?」 「ううん、牛乳は最近飲んでない」 「あら、どうして?」 「...なんとなく、いらない気がして」


山田は、自分も最近牛乳を飲んでいないことを思い出した。


・図書室 午後2時


司書の田村が、返却された本を整理している。 今日も、同じような本ばかりが返ってくる。


『ねこ図鑑』 『月のふしぎ』 『夜の生き物たち』 『動物の生態』


そして、どの本にも同じ現象が。 特定のページに、薄く折り目がついている。


『ねこ図鑑』:猫の目の構造のページ 『月のふしぎ』:月齢カレンダーのページ 『夜の生き物たち』:夜行性動物の特徴のページ


しかも、月齢カレンダーには、7月29日に小さな印が。 鉛筆で、うっすらと丸がつけられている。


・図書室 午後2時15分


田村は、貸出記録を確認する。 これらの本を借りた子供たちのリスト。


1年生から6年生まで、学年はバラバラ。 クラスも違う。 なのに、全員が同じような本を選び、 同じページに関心を持ち、 同じ日付に印をつけている。


「偶然...よね?」 独り言をつぶやく。


でも、偶然にしては一致しすぎている。 まるで、誰かが指示を出しているかのように。 いや、もっと自然に、本能的に同じ行動を...


・図書室 午後2時30分


新しく本を借りに来た子供たち。 2年生の男の子と、4年生の女の子。


「何か面白い本ある?」 田村が聞くと、二人は顔を見合わせた。


そして、同時に答える。 「月の本」 「動物の本」


声が重なって、エコーのように聞こえた。


田村は本を差し出しながら、 二人の目を見た。 午後の図書室は薄暗いはずなのに、 二人の瞳が、微かに光っているように見えた。


金色の、きれいな光。

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