第104話 10月5日(木)
朝の打ち合わせ 朝7時50分
若手教師の視点
職員朝礼。
最近、打ち合わせがほとんどない。
必要ないから。
みんな、することがわかっている。
今日も、教頭が口を開きかけて、やめた。
代わりに、全員で窓の外を見る。
東の空に、薄い月が残っている。
下弦の月。
欠けていく月。
新月に向かって、欠けていく。
私たちも、何かに向かっている。
人間という形が、欠けていく。
家庭科の調理実習 3-4時間目
5年生の調理実習
今日のメニューは、焼き魚定食。
包丁を使う場面で、気づく。
みんな、包丁を使わない。
手で、器用に魚をさばいている。
内臓を取り、骨を外し、きれいに三枚におろす。
素手で。
「包丁は?」
「...いらない」
「手の方が、魚の形がわかる」
確かに、包丁を使うより上手い。
そして、速い。
道具を使う必要が、なくなってきている。
下校時の光景 午後3時
学校前を通った営業マンの視点
仕事で学校前を通る。
下校時間のようだ。
でも、様子がおかしい。
子供たちが、校門で立ち止まっている。
全員が振り返り、学校を見つめている。
まるで、別れを惜しむように。
いや、違う。
確認しているのだ。
明日また来ることを。
仲間がいることを。
そして、満足したように歩き始める。
無音で、整然と。
用務員・小林の証言 午後
今日、一生忘れられない光景を見た。
廊下の向こうから、何かが来た。最初、大型の犬かと思った。
近づいてきて、息が止まった。3年生の山田さんだった。
四つ足で、廊下を歩いていた。でも、這っているのではない。完璧に自然な四足歩行。
銀色の毛が、制服の隙間から見えていた。耳は、頭の上の方に移動していた。
恐ろしかった。でも、同時に...
美しかった。
人間の不格好な二足歩行より、ずっと優雅で、ずっと自然で。まるで、これが本来の姿だと言わんばかりに。
山田さんは、私の前を通り過ぎた。振り返って、微笑んだ。人間の顔で、でも猫の瞳で。
その美しさが、恐ろしかった。私も、ああなりたいと思ってしまったことが。




