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この町のネコ、やっぱりおかしい ー市立祢古小学校記録集ー  作者: 大西さん
第一部 静かなる予兆(2023年7月)
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第10話 7月2日(日)

・朝8時50分 栗田家のリビング


栗田周平が、朝食も食べずに窓際に立っている。 もう30分近く、同じ姿勢で。


母親が心配そうに見ている。 「周平、ご飯冷めちゃうよ」 返事がない。


近づいてみると、じっと外を見つめている。 瞬きの回数が異常に少ない。 1分間に3回程度。普通の1/5以下。


「何を見てるの?」 「...鳥」


・朝9時 同じく栗田家


母親も息子の視線の先を見る。 電線に5羽の鳥が止まっている。


最初は気づかなかったが、よく見ると奇妙だ。 鳥たちの間隔が完全に等しい。 まるで定規で測ったように、50センチずつ離れている。


そして全て同じ方向を向いている。 北東。 時々首を動かすが、その動きも5羽同時。


「変ね」 つぶやいた後、なぜ変だと思ったのか分からなくなる。 鳥だって、たまたま等間隔に止まることもあるだろう。 でも、この整然とした配置は...


・朝9時5分 視線の一致


「あ」 周平が小さく声を上げた。 鳥たちが一斉に飛び立った瞬間だった。


5羽が完全に同じタイミングで羽ばたき、 同じ角度で上昇し、 同じ方向へ飛んでいく。


その軌跡を目で追う周平。 母親も無意識に同じ方向を見る。 そして気づく。隣の家の窓にも、同じように外を見ている親子の姿が。


・午後2時 根岸家の子供部屋


1年生の根岸かおりが、クレヨンを握っている。 画用紙いっぱいに大きな円を描く。 黄色いクレヨンで、丁寧に。


「何を描いてるの?」 母親が覗き込む。 「おつきさま」


円の中を黄色で塗りつぶしていく。 その手つきは、1年生にしては驚くほど正確。 はみ出すことなく、均一に。


「きれいな月ね」 「うん」 「でも、今日は新月よ」 「...そう?」


かおりは手を止めて、窓の外を見る。 昼間の青い空。月などどこにも見えない。


・午後2時10分 根岸家のリビング


「見える気がする」 かおりが言う。 「何が?」 「おつきさま」


母親は苦笑する。子供の想像力は豊かだ。 でも、かおりの表情は真剣そのもの。


試しに母親も窓の外を見てみる。 もちろん月は見えない。 でも... なんだろう、この感覚は。 確かに、そこにあるような気がする。


「ね、見えるでしょう?」 かおりが母親の手を握る。 その手が、微かに震えている。 興奮?それとも...


・午後2時15分 二人の共感


「うん、見える気がする」 母親は正直に答えた。


かおりが嬉しそうに微笑む。 そして、また絵に戻る。


今度は月の周りに小さな点を描き始めた。 たくさんの点。 「これは?」 「みんな」 「みんな?」 「うん、みんながお月様を見てるの」


母親は娘の絵を見つめる。 無数の点が月を取り囲んでいる。 まるで、月に吸い寄せられているかのように。


・午後4時 中央公園の砂場


子供たちが遊んでいる。 5歳の山田太郎が砂山を作っている。 6歳の佐藤花子も隣で砂山を作る。


二人の砂山の形が、妙に似ている。 高さも、傾斜の角度も。 まるで設計図を見ながら作っているかのよう。


「お山作ろう」 7歳の鈴木次郎も加わる。 彼もまた、同じ形の砂山を作り始める。


・午後4時10分 砂場の異変


気がつくと、砂場には10個の砂山ができていた。 すべて同じ大きさ、同じ形。 そして、円形に配置されている。


子供たちは満足そうに、その真ん中に座る。 誰が言い出したわけでもないのに、 全員が同じ方向を向いて座る。 北東の方向。


「何してるの?」 通りかかった母親が聞く。 「お月様ごっこ」 子供たちが口を揃えて答える。


でも、月は見えない。 昼間だし、そもそも今日は新月。 なのに、子供たちは何かを見つめている。


午後4時20分 大人たちの反応


「最近の子は想像力が豊かね」 別の母親が言う。 でも、その声には微かな不安が混じる。


子供たちの視線の先を、大人たちも見る。 何もない空。 でも、なぜか視線が吸い寄せられる。


「あ」 誰かが小さく声を上げた。 一瞬、本当に一瞬だけ、 薄い月の輪郭が見えたような気がした。


いや、それは錯覚だ。 新月に月が見えるはずがない。 でも、確かに感じる。 そこに、何かがあることを。

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