狂気のフルーツワイン
「ドレスコードどころの話じゃなかったわ......」
ミリオネアレストランの個室で、エナは頭を抱えた。
色とりどりの宝石料理を前に、テンカはマナーガン無視で調査を始めていた。
「こんな近くで宝石料理の匂い嗅ぐの初めてだ!料理の解体もし放題だし感謝感激雨嵐だな」
テンカはあらゆる角度で香りを楽しみつつ、ナイフで美しい宝石料理をぐちゃぐちゃにしていく。
「念の為に個室にしておいたのが不幸中の幸いだわ、こんなのお父様の知り合いに見られたらどんなお叱りを受けるか想像するだけで恐ろしい」
エナはテンカを注意する気力すら失せ、琥珀のフルーツワインを一気飲みした。
「しかし、宝石料理もどきを創作しようなんてとんでもないこと思いつくわね」
「それしか、俺みたいな貧民が成り上がる方法がないからな」
黄金のムースを舌の上で転がせながら、テンカが答えた。
「貧民の成り上がりね、私の立場としては反対すべきかもしれないけど面白いから協力してあげる」
「ありがとうエラ様、偉いよエラ様!エラだけに!」
「テンカ君、私の名前はエナよ。失礼極まりないけど悪気なく言ってるのが分かるから困りものね」
若干頬をひきつらせつつ、エナはテンカに微笑みかけた。
「もしかしたらテンカ君の研究が私の野望の役に立つかもしれないしね。私はただの貴族の娘で人生を終わらせるつもりはないのよ。私の目標はこの世界の頂点、この世の全てを手に入れるダンジョン界の神に私はなるわ!」
「エラ......じゃなくてエナ様、背後にドン!とか効果音がつきそうなキャラだな!」
「ふふ、二人の出会いに乾杯ね!」
エナもテンカも頭のネジが何本か抜けている性格のため、ツッコミ不在のまま晩餐は夜遅く迄続いたのだった。