イッカクウサギの巨大化ソテー
「んー、やっぱ地面に生えてる茸より、スライムに生えてる茸の方が若干スタミナが上がってるよな」
スライム茸のソテーを食べながら、自分のステータス画面を見てテンカは呟いた。
今日はダンジョン内のあらゆる茸を食べている。普通の冒険者なら毒キノコにあたる可能性があるため危険な行為だが、鼻のきくテンカは毒のある食料は匂いで分かるのだ。
「となると魔物を直接食べたらパフ効果が凄そうなのに、前にダンジョンで奇跡的に討伐したイッカクウサギを食べてもそこまでステータスが上がらなかった......宝石料理に高いパフ効果があるのは、強い魔物の魔力を宝石が長年吸い取り続けたからか?」
そこでテンカは閃く。
「強い魔物って、何も生きてなくてもいいよな。他の冒険者が倒した後の魔物の骨くらい探せば残ってるだろうから骨から出汁をとってみるか」
そこでテンカは嗅覚を頼りに魔物の死体を探すべく、ダンジョン内に潜り込んだ。
「やばい敵の匂いがしたら逃げなきゃなー」
テンカが危険なダンジョン内で今まで生き残れたのは危機察知能力の高さゆえだが、強い敵に立ち向かわないスタイルでは貧乏冒険者のままである。
下剋上を果たすためには時にはリスクを取ることも必要ーテンカは、突如安全を取るかリスクを取るかの瀬戸際に迫られた。
「ど、どうしてザコモンスターのはずのイッカクウサギがこんな巨大化してるのよ!?」
テンカのいる場所から10メートル先、明らかに上級冒険者である少女が、少女の5倍ほどの背丈のイッカクウサギからの攻撃を剣で弾いていた。
本来は両手に収まるサイズのイッカクウサギが巨大化していることに少女は戸惑っている様子だが、テンカは匂いでピンときた。
「あのウサギ、巨大化するパフを持つ食材を食べたんだ」
普段のテンカならすぐさま逃げていただろう。だが無意識の内に、テンカは叫んでいた。
「そのモンスターの胃は尻尾の付け根辺りだ、そこを切り取れ‼︎」
過去にイッカクウサギを料理するためにさばいたことのある経験から、テンカは少女に指示を出した。
「だ、誰⁉︎」
少女はテンカの存在に戸惑いつつ、やけくそ気味にイッカクウサギの尻尾の付け根を切り裂いた。
「ぷぎゃあああ!!!」
イッカクウサギは断末魔の声を上げ、ドスンと倒れ込むと見る見るうちに身体が縮んだ。
「あ、ありがとう助かったわ」
息を切らせながら、少女ーエナはテンカに手を差し出した。
「良かったら何かお礼でもー」
「宝石料理をご馳走してくれ‼︎」
エナが言葉を言い終わらない内にテンカは大声で言った。
「店はミリオネアレストランがいい‼︎」
「あ、あの店はドレスコードあるわよ」
エナは頬をひきつらせながら言った。
「じゃあミリオネアレストランの残飯を貰えるよう取り計らってくれ!」
「いきなり要求が下がったわね⁉︎」
テンカの勢いに押されつつ、エナはクスッと笑った。
「いいわ、店に入るための服は私が用意してあげる」
これが、貴族の貧民の運命(?)の出会いであった。