貴族と貧民のポタージュ
この世界では、宝石はパフ効果のある食材だった。
王都の外れ、「ミリオネアレストラン」。
ここでは、ありとあらゆる宝石を料理にして出してくれる。
ある日、貴族の少女・エナは、その扉をくぐった。
「いらっしゃいませ。今日のおすすめは『魔力を高める黒曜石のステーキ』と『すばやさを上げる琥珀のハチミツソース添え』でございます」
「あら残念。今日の階層ボスには不向きなパフだから、おすすめはまたの機会にするわ」
エナが選んだのは、虹色のオパールリゾットだった。
湯気とともに、七色に輝くリゾットが運ばれてくる。
ひとさじすくって、口に入れる。
......ぷちっ。
オパールの粒がはじけ、フルーツにも似た芳香が広がる。
甘みと酸味、そしてどこかスパイシーな後味。
「とても美味ね」
エナは目を輝かせ、あっという間に料理を完食すると身体が淡く光り、空中に現れたステータス画面に「攻撃力+5、防御力+10亅と表示された。
「これで今回のダンジョン攻略も楽勝ね」
エナは微笑み、高額な代金を支払うとレストランを後にした。
宝石を料理に使うなら、その代金が高額なのは必然である。
よって、この世界では金持ちの冒険者が宝石料理のパフ効果によってダンジョン攻略を成功させ、貧しい冒険者はダンジョン攻略を進められず、貧富の差が開いていくのもまた必然である。
だがその必然をひっくり返そうと企む少年が一人いた。
少年は、ダンジョンの安全エリアで怪しげな料理を作っていた。
「この砂鉄を集めたスープにハチノスを加えれば......ま、不味いっ!」
少年・テンカは、泥の様なスープを口に含んだ瞬間ブーツと吹き出した。
「くそ、宝石料理が食べれない代わりにダンジョン内の素材でパフ効果のある料理作れないかと思ったけど無理なのか⁉︎」
テンカは赤ん坊の頃に貧民街に捨てられていた冒険者であり、当然金はない。
それでもダンジョンで一山当てようと冒険者になったはいいが、パフ効果なしにダンジョン攻略できるほどこの世界は甘くなかった。
「俺の鼻がこれはイケるっていってたんだけどな」
そんなテンカの唯一の取り柄が、人一倍鼻がきくことである。
たまに貧民街の仲間の作った料理にありつけることがあるが、テンカは匂いだけで料理の材料を当てては仲間を驚かせていた。
宝石料理のレストランで食事などしたことはないが、こっそりレストランの窓の外から料理の匂いは嗅いでいた。
その記憶を頼りに、テンカは宝石料理もどきを作ろうと試行錯誤しているのだ。
「一度でいいから、本物の宝石料理を食べれればイケると思うんだけどなー、お金持ちのお嬢様が奢ってくれたりしないかなー」
テンカは空腹でキュルキュルと鳴る腹をさすりながら、次の素材を探すため立ち上がった。
ーこれは、そんな少年が創作料理で下剋上を目指す物語である。