冥王
「いま出て来ました、少年Aです! あやちゃんを撲殺した少年Aが、今から移送されていきます!」
リポーターの痛烈な声が響く。
同時にフラッシュの眩しい輝きが、辺りから放たれた。
その只中、警官に守られて歩くのは若い少年だった。
黒いフードを頭からかぶり、腕には金属製の手錠がはめられている。
フードから覗かせる視線は爛々と輝いていて、口元に浮かぶのは卑下た笑み。
警察署の前には、多くの警官、リポーター、一般の野次馬の姿がひしめいていた。
幼児を虐待した、若い男が移送されつつあったのだ。
「やけにイカれた表情だな。しゃぶで狂った表情だ」
「多分あれはわざとだぜ、精神異常者に見せかけたフェイク。中学時代は相当な秀才だったらしいからよ」
「どうせ数年のしょんべん刑で、終いって算段か。虚しいな」
そこに漂うのは、見た目と裏腹の、覚めた空気。
少年を悪と判断して、その罪を実行できぬ悔しさだ。
「あやを帰して! あの子を帰して!」
三十代程の女の声が響き渡る。
娘を殺された、母親のようだ。
同時に場が、沈黙に包まれた。
警官に抱きかかえられた母親に、沢山のフラッシュが浴びせられる。
そしてその母親の姿を、若者の卑下た視線が捉えた。
「……あやちゃん、電池切れちゃったね……」
そして響く、抑揚ない声。
「殺せ! そいつを殺せ!」
「死刑だ、処刑しろ!」
「人間じゃない、化け物なんだ!」
同時に辺りから、爆発したような咆哮が響いた。
「……殺せ? 大丈夫だよ、ボクは代えの電池あるもん」
それでも少年は余裕だ。
警察に守られているから、安心感があるのだろう。
「……お前は終わりだ……」
だがその耳元に、隣の警官の声が響いた。
ざわめきに掻き消され、他の人々には聞こえないが、確かに重みのある声だった。
「ふぇっ?」
意味が分からず、視線を向ける少年。
「はがっ!」
突然、その額に青筋が走った。
胸元を押さえ、息苦しそうに口から泡を吹きだす。
流石の人々も、その異変に気付いた。
「どうした、大丈夫か?」
「しっかりしろ!」
混乱する人々を余所に、少年の顔色から血の気が引き、真っ白になっていく。
手足がピクピクと波打つ。目を掻き開き、失禁した。
「死んだ……」
「バチが当たったんだ」
そこに存在するのは、息をしない肉の塊り。
生物と呼べない、輝きの掻き消えた存在だった。
この世を生きとし生ける者は、生まれた時からひとつの輝きに守られ、その瞬間を生き抜いている。
命こそが輝きであって、誰にも奪えぬ権利なのだ。
だが時としてそれは、奪われる運命にあるのも確かだ。
奪われた時は、それなりの代価を払うのが常。
……その真理こそが、来たるべき世界の真理なのだ。