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ネクストワールド  作者: 成瀬ケン
第四章
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彼女との約束


 電王のいう通り、魔法の世界の出現だ。



「もう行くんだろ?」


「……ああ。俺自身で、この世界の姿を確認するんだ。だって生きてる、死んだ明日香との約束だしな」

 力強く言い放ち、立ち上がる智。


 彼はようやく決心していた。


 電王によって導き出された、この世界を見て周ろうと、そして場合によっては破壊しようと。



 この石積みの中には、明日香が掲げていた赤い秘石の欠片が埋められている。


 彼女が遺した、二つ目の生きた証だ。



 その脳裏に過るのは、明日香との会話だ。


 破壊神の力を、明日香に初めてお披露目したあの夜。



 二人、ひとつのベッドで生まれたまんまの姿で、ひとつになった夜の思い出。




 二人は薄暗い室内、明日香のベッドの上でひとつになっていた。


 智が明日香の背中から腕を回して、その胸元を抱きかかえていた。



 その全てがいとおしい。安らぎの感覚が全身を包み込む。いつまでもこうしていたいと思っていた。



「もし、あたしが死んでも、悲しむなよ」


 だがその明日香の一言でハッとした。


 すかさす明日香の小柄な身体を回し、自分に向き直らせる。



「そんなこと言うなよ」

 明日香の両肩に手を伸ばし、慌てて伝える。


 自分では冷静に、男らしく伝えたつもりだ。

 だが明日香には、そうは見えなかったのだろう。



「そんなツラ、すんなよ」

 明日香が智の頬に両手を添えた。


「人が生きてる以上、いつかは死ぬんだ。あたしが先か、あんたが先か、それが明日か、百年後か、それだけの違いだろ」

 いつも通りの笑顔だ。

 キラキラした瞳、長いまつげがピクリと震える。



「だけどさ」

 それは智だって理解はしてる。

 理解してるけど直接は訊きたくなかった。



「例えどちらかが死んでも、この時間、この一瞬だけは永遠なんだ。その全ては互いの中に残ってる。悲しむ余裕なんてないんだよ。それを乗り越えて、前に進まなきゃ」


 まるで遺書でも残してるような、淡々とした口調。



 その言葉の内容と、穏やかな表情、優しい笑顔、それらが混在して、智を益々混乱させる。



「ホント、いつまでたっても臆病だな。お前男だろ?」

 智の頭を引き寄せる明日香。

 互いに額をぶつけた。



 一瞬の沈黙。明日香はなにかを考えるように瞼を閉じてる。



「それじゃ、交換しようか」

 やがて笑顔を見せて、再び距離を取る。


「交換?」

 困惑する智の右手を、明日香の左手が掴み取った。


 そしてゆっくりと自分の胸元に持ってくる。


「えっ?」

 智の表情がかすかに紅潮した。


 その掌が触れるのは、明日香の胸元だ。

 そのふくらみの温かさが、手を介して伝わってくる。きめ細かな肌、吸いつきそうな感覚を覚える。


 それと同時に、ドクンドクン、という命の鼓動を感じた。何故だが安らぐ響き。



 世界の摂理が、そこには凝縮してるように思えた。


「それがあたしさ」

 ニコリと微笑む明日香。


 それを見てると、自然と智も笑顔が浮かんでくる。



「そしてこれが智」

 明日香の右掌が包むのは、智の胸元。


「これで二人はひとつだろ」


 二つの両手を介して、二つの命の鼓動が共鳴していた。



「もちろんあたしは死ぬつもりはないよ。生きて、智と共に生きて、明日を迎えるんだから。この命の鼓動は、ずっと続くんだから」



 それこそが智と明日香、二人が交わした約束だった。



 だから前に進む。ここで泣いても、明日香は喜ばない。


 前に進むこと、明日へつなげること、それが明日香の願いだから。




 今の世界が、彼女の求めた世界だとは思えない。


 電王が言う来たるべき世界が、どんなものかも分からない。


 それでも留まることは出来ない。


 何故なら道は拓きだしたのだから、新しい世界が始まったんだから。



 全ての解放と平和の世界。


 それが、明日香と交わした唯一の約束だから。




~終わり~


この続きはエブリスタでも公開してます

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