駆け引き
「お前だって、信長様に魅了されたから、こんな極秘任務に臨んだんだろ?」
だがその俊平の問い掛けでハッとした。
「極秘任務?」
「いいんだよ隠さなくて。もう任務は、終わってるんだから。凄いよな、悪の組織に潜入して、悪の教祖を糾弾したんだから」
「……糾弾って、世界平和協会の伊集院をか?」
「だからもう、はぐらかさなくてもいいって。……まぁいいや。とにかくお前だけでも助けられたんだから」
俊平はホッとした表情だ。
与えられた任務を確実に遂行した、そんな満足そうな表情。
「だけどホント、びっくりしたんだぜ。あのテレビ中継を見ながら信長様が、この二人を救い出せ、と命じたんだけど、それがお前なんだからな。ホント俺は鼻高々だよ。もうひとりを助けられなかったのは、残念だけどな」
どうやら俊平は、こいつを助けろ、と言われただけで、それが智、つまり破壊神だとは知らなかった様子。
そして彼が言う、もうひとりとは明日香のこと。
おそらく統治者も、破壊神の正体、智のことは知らない。テレビ中継を介して、初めて姿を確認したのだろう。
ただひとりを除いては……
「だったら、あいつ」
智は地上で雄姿を誇る、電王の姿を指さす。
「あいつのことを、信長様はなんていってるんだ?」
呼応して視線を向ける俊平。
「あいつも信長様の配下なんだろ。相当なるハッカー。パソコンを駆使して、悪の組織を糾弾してる」
その全ては捻じ曲げられた情報だ。電王、統治者、それらが真実を捻じ曲げている。
「なぁ、この上空に浮いてるバカでかいのはなんだ? 流石にデカすぎないか」
「さぁね。俺は本職の自衛官じゃないから。今だけの期間限定要員だから。……それに本職自衛官に訊いても、知らないって言ってたから。そもそも航空母艦なんて、世界のどこにも存在しないんだって。だから噂じゃ、アメリカが極秘で開発した代物だろうってさ。じゃなきゃ、単なる空想の産物、ってなっちまうって」
その俊平とのやり取りを反芻して、智は選ばれし能力者の存在を、改めて考える。
破壊神として、その中で見ていたから分からなかった。
この能力者という連中、実はすべてがバラバラな思想の持ち主だと。
時と場合によっては協力もするが、時には騙しあい、化かしあいをする連中なんだと。
所詮能力者も、この世界ではひとりの人間だ。
そう言った策を練らなければ、この世界では生きていけないのだろう。
そして智の頼るべき存在は……
赤い秘石を握った右掌を、グッと自分の胸元に添える。
そして“あの夜”のことを思い出す。
……そう、俺はひとりじゃない……
ここには確実に、“明日香”がいる。
地鳴りはいつまでも響く、壁と化した濁流は荒れ狂う。
バリバリと解き放たれた電王が、そそり立つ。
塵で閉ざされた闇が、世界を覆い尽くした。
『グッハハハハ! 期は熟した、下らぬ足枷は外れた。今こそ我らの世界、ネクストワールドが始まるのだ!』
それこそが電王の言う、新たなる世界の始まりだったんだ。




