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ネクストワールド  作者: 成瀬ケン
第四章
27/30

魅せられた民衆


「智!」

 不意に誰かに呼ばれるような感覚があった。


 ゆっくりと上を見上げた。


 耳を澄ますと、街が崩壊する音に混じって、風切り音のようなものが響いている。


 辺りはやけに明るい。空から幾多の光が射し込んでいたから。

 そしてその中を、無数のなにかが垂れ下がっている。その様子はまるで、お釈迦様が垂らす蜘蛛の糸にも思えた。



「さとしー!」

 今度ははっきりとそれが聞こえた。


 蜘蛛の糸の先には、誰かが吊り上げられていた。



 地上に降り立ち、その全容が明らかになった。迷彩の戦闘服、つまり自衛隊隊員だ。しかもその顔には見覚えがあった。


「俊平、おまえがどうして?」

 それは遠藤俊平だった。


「話してる余裕はない。すぐに津波がくるから」

 そこにいつもの適当な俊平の様子は微塵も感じられない。


 的確に作業して、智を手前に括り付ける。


 そして頭上に合図を出して、二人の身体は宙に浮きだしたのだ。



 ある程度、上空まで引き上げられてから智は気付いた。



 多くの人々が、自分と同じように空から救出されていると。


 上空にはヘリやオスプレイがホバーリングしていて、地上の人々を引き上げている。



 それは見える範囲全て、延々と続く光景なのだろう。



 更に上空には、巨大な飛空艇らしきものが浮かんでいる。

 それはまるで宇宙船。それに向けてヘリがひっきりなしに飛びかっている。




 そして智、改めて眼下の様子を窺う。


 津波は既に街に襲い掛かっていた。


 数十メートル程の波が、濁流と化して一気に襲い掛かる。

人や車、その他のものがそれに洗われ消えていく。


 それは巨大なビルにぶつかってもびくともしない。ガラスを突き破り、しぶきをあげて益々巨大化していく。


 その恐怖の光景の中を、逃げそびれた人々が必死に逃げ惑っていた。



 助けが来なかったら、自分もああなる運命だったのだろう。

 被害に遭った人々には悪いが、命の重さをつくづく感じた。

 その足元まで迫った地獄の光景を、漠然と見つめていた。




 やがて、智と俊平、二人の身体がヘリに巻き上げられた。


 この後は上空にある飛空艇らしき物体まで移動するらしい。

 そこに助けられた大勢の人々が乗せられているということだ。


 バリバリと風切り音と共に上昇するヘリ。



 その機内、智と俊平は並んで座っていた。

 

「俊平。お前、どうしてここに? どうして俺を助けに来れたんだ?」

 不思議に感じていたことを訊ねた。


「どうしてって、信長様の命令だからだろ」


「えっ?」


「信長様が、この地震を察知して、民衆を助ける為に駆けつけたんだよ」


「信長が?」

 俊平達、多くの者は“信長様”と呼ぶが、智は知っている。


 正式名称は“統治者”。全てを力で支配し、カリスマ性で魅了する能力者だと。



「なんだよお前、信長様を呼び捨てするなんて」

 一瞬怪訝そうな視線を向ける俊平。


「すまない、つい。……信長様な」

 その空気を察し、智が言い直す。


「とにかく、あの方は凄いよな。あらゆる地形情報、人の潜在意識、過去のデータなんかを駆使して、今回の地震を予見した。そしてそれに巻き込まれた民衆を助けるために、自衛隊内でのクーデターまで画策してた。全てはこの日の為だ。普通じゃ出来る芸当じゃないよ」



 おそらく統治者は、この事象が生じることを、電王を介して知っていたのだろう。

 だからこそ逸早く、こうして民衆を助けに駆けつけた。



「つまりお前は、信長……様に魅せられて、自衛隊に入った。それで奴の配下になったのか?」


「もちろんそうだよ。あの人はホント凄いよ」

 この世の終わりだというのに、俊平の表情は恍惚なもの。

 それだけ統治者の魅力に、魅せられているのだろう。


 それはこの場に集う自衛隊の面々、全てにもいえること。

 そして今こうして助けられた人々も、その魅力に引き込まれていくのだろう。



 かくいう智も、その凄さに舌を巻いていた。

 少し前までなら、統治者に魅了されてたかもしれない。


 世の指導者のほとんどは、口先だけのハッタリ野郎か、突き進むだけの蛮勇、その両極端しかないから。



 だがそれまでだ。これは自然の事象ではなく、奴らが計画した未来だから。


 様々な思惑、駆け引き、だまし合いの結果、生み出された未来だったから……


 今まではおぼろげにそう感じていたが、俊平との会話で、それが真実だと確信した。

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