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ネクストワールド  作者: 成瀬ケン
第四章
24/30

最強の力

「助けてくれー!」

 同時に拘束の解かれた伊集院が、再び地面を這いずり、その場を逃げ出す。


「逃がすか!」

 明日香は無事だった。伊集院を逃がすまいと、その場で振り返る。



 ズダーーン! 一発の銃声が鳴り響く。


 それで誰もが無言になる。ビルに反響する銃声、やがてそれも止み、静寂が包み込む。


「嘘だろ……」

 愕然となる智。



 そのたった一発の弾丸は、確実に明日香の胸元を射止めていた。


 胸元の秘石が、幾つかに砕ける。キラキラと街灯りに煌めいた。



「あの秘石は、そう簡単に砕ける代物じゃないって……」

 わなわなと震える智。

 あり得なかった。電王の話では、あの秘石は拳銃くらいでは砕けないと訊いていたからだ。



 そして同じくらい、それを信じられない存在がひとり。


「なんだよ、これ」

 それは明日香。弾丸は秘石こそ砕いたものの、その身体には穿うがたれてはなかった。


 だがこの際、それはどうでもいい問題だ。



「誰だ、命令は下してないぞ!」

 隊長が叫ぶ。


 だが狂った流れは、誰にも止められない。

 何故なら機動隊員の中には、秘密結社の暗殺者が数人紛れ込んでいたから。


 ズダーン! 響き渡る二発目の銃声。


 それは明日香の右肩を貫通する。

 秘石の消滅は能力の消滅。解放者の能力を奪われ、普通の人間に成り下がっていたのだ。



 それでも銃声は鳴り響く。


「攻撃を中止しろ!」

 隊長が吠えるが、それは連鎖して続いていく。


 幾多の弾丸が、明日香を狙って飛んでいく。



「止めろーー!!」

 再び智が吠えた。


 それに呼応して、弾丸が宙で、次々と破壊される。


「グオッ!」

「銃身が?」

 同時に機動隊員の銃器が、けたたましい音を響かせて暴発した。


 その有り得ぬ出来事に、場がパニックに包まれる。誰もが視線を泳がせ、辺りを見回した。



「……どうしてだよ? どうしてこんなことが起こるんだ?」

 その只中を、智が歩みだす。



「動くな、貴様も仲間か!」

 幾多の銃口がその背中を捉えた。



『そいつを狙うのは、止して貰おうか』

 その場に電王の声が響き渡った。


 同時に教団建屋が、激しい放電に包まれる。

 煌きと共に、窓ガラスが割れて、地面に落下する。



 再びパニックに包まれる人々。


 その視線の先、建屋の側面に浮かぶのは、電王の巨大な金色の影だ。


『所詮ただの人間だな。あさましい欲に満ちて、傲慢な連中だ』

 その場に漂うのは、恐怖と畏怖と絶望の念。



「ひっ、はっ……電王」

 もはや伊集院の思考能力は壊れていた。見えざる恐怖に怯え、地面を這いずるのみ。



「明日香」

 その喧騒の最中、智は明日香を抱きかかえて震えていた。右手に、拾った秘石に視線をくれる。


「馬鹿だな、智。……そんな顔するなよ。あたしは嬉しいんだぜ。暴走しそうになったあたしを、止めてくれたんだから。頼もしいじゃんよ」

 明日香は無事だった。

 右肩こそ弾丸が捉えているが、抜けきったことで、見た目より損傷は小さい。


 このまま病院に連れ込めば、傷は癒えるだろう。


「喋らないで、病院に行けばなんとかなるからさ」

 それでも智の目に浮かぶのは涙だ。


「これぐらいじゃ死なないさ。一緒に、新しい世界を創るんだろ?」

 明日香の顔に浮かぶのは、希望に満ちた表情だ。

 全てを解放し、新しき夜明けを夢見る笑顔。


「ムダだ」

 だが突然、誰かが言った。


 いつの間にか二人は囲まれていた。警察ではない別の存在に。


「確かに貴様らの強さは脅威だ。我々としても、梃子摺てこずるものがある。……だが貴様らは、監視されて生きているのだ。どこにも逃げられない、誰も助けない。所詮それだけの存在なのだ」

 抑揚なく響く男の声。


「そうだよな、狙撃手」

 意味深な台詞。

 その視線が捉えるのは、教団屋上付近。



 そこには誰かの影があった。キラリと輝く煌めき。おそらくライフルかなにかの銃口を向けている。



 ズダーーン! その銃口から一発の弾丸が放たれた。


 それは確実にこちらに向けて飛んでくる。



「させるか!」

 グッと気合いを籠める智。

 弾丸目掛けて小石を瞬間移動させる。



 だが次の瞬間、愕然となった。

 

 移動させた小石は、確実に弾丸を捉えていた筈だった。

 甲高い衝撃音をまき散らし、爆発して砕けた筈だった。


 だがその弾丸は、何事もなかったようにまっすぐと飛んでくる。


 すかさず背を向けて、自らを盾とする智。



 しかし何故か、弾丸の軌跡は僅かに曲がる。


「キャーァ!」

 明日香の左側頭部を貫き、轟音と共に爆発した。


 その衝撃で吹き飛ばされる智。



「確保だ!」

 それと共に男達が駆け寄ってくる。

 地面に寝転がる明日香の身体に、次々に乗りかかっていく。


「やめろ!」

 叫びを挙げる智だが、その身体にも男達が次々と襲い掛かってくる。


 わずかに見える明日香の表情。そこに一切の感情は感じ取れなかった。

 死、の気配が襲いつつあった。



「……ふざけるな! こんな足枷なんて、いらないんだ!」

 心から吠える智。

 その首に掲げられた秘石が、眩しく輝いた。


 それは夜の光景を、明るく照らすほどの威力。そして突き刺すような痛みまで伴っていた。


「ぐわー、焼ける!」

「助けてくれ!」

 それが智を拘束する男達に襲い掛かる。


 焼け付く痛みに耐え兼ねて、智を拘束する腕を放し、地面をのたうち回わる。



 それでも智の怒りは収まらない。

 地面に片膝をつき、手前に右拳を構える。

 教団屋上に、先程の人物の姿は見えなかった。



「自由こそが俺の求めるところ。足枷なんか引き千切る。この手で破壊するのみ!」


 その視線が捉えるのは、中庭に飾られた教団のシンボル。

 大理石製の数十センチ程のレリーフだ。



 そしてその瞬間、そのレリーフが、忽然と姿を消した。


 誰もが無言だった。なにをしたんだ、という表情で、智を見つめている。

 誰も次の一手を出せず、攻めあぐねている。


 そして智、ゆっくりと空を見上げる。

 それに呼応して、その場の人々も空を見上げた。


 空を支配するのは、巨大な満月。

 過去何千年、何万年と変わらぬ勇姿。



 その満月の一部が、無声映画でも観てるように、音もなく崩れた。赤い爆煙が噴き上がる。




 誰もが固唾を飲んでそれを見つめる。

 言葉さえ無意味だった。



 ズバーーーン!



 天とも、地とも分からぬ、激しい衝撃派が発生した。


 地面がガタガタと震えだす。まるで地球そのものに、なにかがぶつかったような衝撃派だ。


「地震だ、デカいぞこれは!」

 誰もがその辺の木や建物に手を添え、倒されないよう踏ん張りを利かす。




『そうだ、それこそが破壊神の力! 全てを終わらせて、新しき夜明けを呼び覚ます、最強の力!』

 電王の咆哮が響き渡たる。



 全ての元凶は智だった。

 智が瞬間移動させたレリーフが、月の表面設備を吹き飛ばしていたのだ。



 この世界は幾多の物質で構成されている。

 それは空気中にも言えることだ。水素や酸素、二酸化炭素など様々な原子で構成されている。


 だからその場所に、別の物質を出現させれば核反応が生じる。



 そしてそれを可能にする人物こそ破壊神。


 来たるべき世界を創造するにおいて、一番邪魔なのは今ある世界。


 その世界を破壊する上で、なくてはならない最強の戦士こそが破壊神だから。

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