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ネクストワールド  作者: 成瀬ケン
第四章
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動き出す秘密結社




 それから数か月が過ぎた。




 その日、智と明日香は、いつも通りにファミレスで会話をしていた。



「今日の誘拐犯はキツかったな」


「だね。中国の組織犯罪だったからね」


 物騒な話を、ごく自然に会話する二人。


 深夜の二時を過ぎた店内は、殆ど人の姿はない。故に他人に聞こえる心配はなかった。



 あれから智は、明日香の手伝いをすることが多くなっていた。


 むろん、手伝いといっても、殆どは明日香ひとりで解決していた。影からの些細なアシストくらいだ。



「だけど最近、物騒な事件ばかりだよね」

 憂い、言い放つ智。


「確かだ。世界情勢も落ち着かないし、異常気象も続いてる。電王の言う通り、このままじゃ、世界は滅びの道に進むのかもな」

 同調して明日香も言い放った。


 電王の話で、他の仲間の存在も聞いてはいた。



 動物と共に生きる者“獣王”。


 時間を超越する者“旅行者”。


 新しき世界を創りし者“創造主”。


 命を奪う者“冥王”。


 志を持つ者“統治者”。


 未来を見る者“預託者”。



 智の胸中、恐怖感もあった。


 だけど明日香の表情を見て、一緒に世界を変えたいと感じていたのだ。


 ……それが智の夢、『なにかを守りたい』という、思いだったから。



 そのとき店のドアが開いて、数人の人々が入室してきた。

 黒い衣服を纏った集団だ。



「鳴門明日香だね」

 そして、明日香の横に立ち止まり、言い放った。


「えっ?」

 そのいきなりな展開に視線を向ける明日香。

 ある種の気配を察したように、蒼白になっている。


「キミには、国家転覆の容疑がかかっている。おとなしく我々に従うんだ」

 信じられない台詞だ。

 意味が判らない、国家転覆など思ったこともないし、捕まる覚えもない。


「なにを言ってるんだ」

 困惑しその腕を払う明日香。


「キミは能力者だよな。上層部の探知で判明した。能力者は即逮捕、それがこの世界の秩序なんだ」


 男達は、明日香の能力を認めた上で、逮捕しようとしていたのだ。


「止めろ!」

 いきり立ち、気合を籠める明日香。

 その首のペンダントがふわりと宙に浮いた。


『それ以上能力を引き出せば、確実に捕獲されるぞ!』

 突然、機械音が響いた。


 同時に店内のいたるところから爆発音が鳴り響く。

 稲妻にも似た衝撃が、男達に襲い掛かった。


「ぐおーっ! 電……王!」


 バチバチとした放電に包まれる男達。

 身動きが取れず、その場にへたれ込む。


 やがてその意識が吹き飛び、難なく崩れ落ちた。


 それは電王の能力だ。力を引き出し、雷電となって男達を取り押さえたのだ。



『言った筈だ、鳴門明日香。あまり派手にやれば、裏の社会が動き出すと!』

 電王の叫びが響く。


 明日香は覚めた態度だ。


「……確かに、少しばかり、やり過ぎたようだ。だけどあたしは、悪い奴を野放しにするなど出来ないんだ」

 抑揚なく言い放つのみ。


『“伊集院”か』


「そうだ。あたしが掴まる前に、あいつだけはなんとかしなきゃ。今でも犠牲者は生まれてる」

 意味深な会話を繰り出す明日香と電王。


 その様子を、智が呆然と見つめていた。


「悪いな、あたしと一緒じゃ、あんたにも迷惑がかかるな」

 それに気づいた明日香が言い放った。


 なにかを決心したように、無言で入り口に歩き出す。



「迷惑だなんて、そんなこと」


「ここから先は、あたしひとりでなんとかする。だからサヨナラ」

 しかし明日香は頑なだった。


 ばっと走り出し、闇夜の中に消えていく。


 それを追いかける智だったが、どこにもその姿は確認できなかったのだ。






 こうして智は、ひとり自分のアパートへと戻った。


 室内は穏やかだ。熱くも寒くも感じない。まるで泥にでもなった感覚。頭の中が空っぽだった。



『なにを考えている?』

 パソコンのデスクトップから、電王の声が響いた。


「……お前……」

 茫然自失で言い放つ智。


『鳴門明日香のことか?』

 電王の台詞は、妙に抑揚なく耳に響く。



「ああ、彼女のことだ。俺にはなにを考えてるか、さっぱり理解出来ない」

 素直に胸のうちを吐露する智。

 藁にも縋りつきたい、そんな思いだった。



『あの娘の両親が、悪徳宗教の餌食になって、死んでいった話は聞いたことがあるか?』

 電王の問いかけに、智が首を縦に振った。



『その中心人物だった男が、宗教団体を立ち上げたのだ』


「だけどその宗教団体の連中って、捕まった訳じゃなかったのか」

 愕然と呟く智。


 明日香の両親を、死に追いやった連中だ。

 既に警察に捕まったものと理解していた。



『捕まらないさ。奴らは世界政府の一角。警察組織とて介入は出来ないのだからな。それこそが、この世界の仕組みだ』


「そんな……」

 絶句した、頭の中が真っ白だった。


『鳴門明日香は、その組織の壊滅を目論んでいる。……その近辺に潜み、全ての事実をさらけ出そうとしてるんだ』


「それが本当なら、どうして俺に言ってくれなかったんだ?」


 だからこそ聞きたかった。どうして自分を避けるような行為をしたのかだ。



『それを言ってなんになる? お前はその組織を、壊滅出来るのか? 本気で世界を変える気はあるのか?』

 デスクトップから、突き刺すような視線を感じた。

 見透かすような、鋭い視線だ。


 暫しの沈黙に包まれる。



「変えるさ。彼女の為だ、彼女の選んだ道だ、後悔はしない」

 やがて智が、堂々と答えた。



『それでこそ破壊神、我らの同志だ』

 電王の影が揺らめいた。



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