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ネクストワールド  作者: 成瀬ケン
第三章
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それぞれの能力



 太平洋上・合衆国艦隊、大型戦艦。




「あれがそうなのか?」

 その艦橋ブリッジ内、艦長がゴクリと唾を飲む。


「はい、我が国の海域まで辿り着いて約一時間。こちらからの応答には、一切答えません」

 部下と思しき男が通達した。



「……いったいどこの国の船なのだ? まさか生物でもあるまいし……」

 戦艦から離れた海上には、巨大ななにかが航海していた。

 船のような、宇宙船のような、異彩を放つ代物だ。


 それも大きさは戦艦の倍近くある。弾丸の発射口らしき、幾つもの装備が整えられていた。



「……最近日本近辺で、このような未確認物体が目撃されていますので、おそらくはその類だとは思いますが……」


「……つまり、それがこの海域まで流れ着いた、と言うことかね?」


「はい、日本政府からの情報によりますと、突然現れた未確認物体は、一日程度で消滅する。邪魔な物体ではあるが、攻撃してくることはない、とのことです。……ですからこのままにしておいた方がよろしいかと」

 部下が助言した。


 しかし艦長は首を振らない。


「我々は威厳ある合衆国ステイツ艦隊だぞ。そんな見てみぬふりなど、出来ぬ相談だ」

 そこにあるのは何者にも屈せぬ強い意思。


「とにかくこんな物は、この海域にそのままにしては置けん。ミサイルで爆発させるか、日本海域まで押し戻すかするのだ。もちろんこのことで、プレジデントの了承は得ている」

 軍事大国アメリカの、自尊心だった。



 シュパーン、と言う風切り音と共に、ミサイルが勢いよく掃射される。


 やがてけたたましい爆音と共に、謎の物体に命中した。



「やったか」

 期待と共に視線を向ける乗組員。


 眼前の海上は、爆発で生じた煙が、モクモクと立ち込めている。


 焦れったい程の沈黙の時間が過ぎる。


 立ち込めた煙は、少しずつ霞んで鮮明になっていく。



「……信じられん」

 だがそこあるのは、戸惑いの感情だった。


 物体は無傷だ、傷ひとつも穿たれた形跡はない。



 そして再び信じられない光景が飛び込む。


 一瞬謎の物体が、バチバチと青白い陽炎を放った。


 そしてひとすじの青き輝きが、鞭をしならすように海上を一回転した。

 おそらく、レーザーの類と思われた。



 次の瞬間、そのレーザーが、戦艦の機体を切断するように走り出したのだ。


「なんだと? 応戦しおったぞ!」 


「なにが起こった?」

 艦橋内が愕然となる。



 鉄の船体が、鋭利な刃物で切られたように、バキバキと悲鳴を挙げて真っ二つになる。

 同時に爆発音が響いて、激しく炎上した。




♢♢♢




 都内某所にある施設内では、ただならぬ空気に包まれていた。



「……これはどう言うことだ」

 口ひげを蓄えた、スーツ姿の男が言った。

 胸元にいくつもの勲章をぶら下げた、五十代程の男だ。



幕僚長ばくりょうちょう、これは蜂起ほうきなのです。この世界を変えようという、我らの崇高なる意思」


 そしてその手前には、軍服姿の男達が、それぞれ銃器を持ち構えて対峙していた。


 口ひげの男は自衛隊幕僚長、眼前の男達はその配下だ。



「馬鹿げたことだ、これはクーデターだぞ。御主ら如きが、国家に対して反逆出来る筈はない」

 幕僚長が、激しく机を叩く。



「確かに今は、小さな反抗です。ですが、やがては大きな流れとなる。……あなたも変わる筈です。あの方に出会えば、あの方の思想に恭順すれば」

 男達の顔に浮かぶのは、揺るぎない自信。

 何事にも変えられない、強い意志が感じられた。



「あの方だと? 例の信長もどきの男だな。若者やヤクザ組織を束ねているとは聞いていたが、貴様らまで心酔するとはな」

 それを察し、幕僚長の表情が苦痛に歪んだ。


「我々は、歩むべき道を間違えたのです。見た目の平和に騙され、己の信念を忘れた。ですが未来は広がっているのです。来たるべき世界、ネクストワールドは」





♢♢♢





 某県にある某動物園。


 閉園後のその敷地内を、二人の警備員が見回っていた。



「最近、動物の様子がおかしいよな。酷く興奮気味で攻撃的だ。所詮は獣ってことか」


「異常気象のせいだろ。こう熱帯夜が続けば、動物じゃなくともおかしくなる」


「確かにそうだな。人間だっておかしくなるしな」


「そう言うこと」


 そんな風に、のほほんとした会話を繰り広げていた時だ。サッと動く、なにかの気配に気付いた。



「なんだ、なにかいるのか?」

 怪訝そうにライトの光を当てる。


 その光に照らされて、一匹の猿の姿が飛び込んだ。



「……こいつ、脱走したのか」

 少しイラッとした感情を浮かべる警備員。


 そして気付いた、猿の右手にキラリと光る、なにかが握られているのに……



「……そいつは檻の鍵じゃないか?」


 確かにそれは、鍵のようだ。


「ちょっと待て、少し様子がおかしくないか?」

 もうひとりの警備員が投げ掛けた。


「……た、確かに」



 園内は不気味な程、暗闇に包まれていた。


 だが風に乗って、なにかの音が響いている。明らかになにかが動く気配だ。


 違う猿が、警備員の頭に乗りかかった。嘲るように、別の猿が目の前を飛び交う。



「バオーーン!」

 耳をつんざく鳴き声が、響き渡る。

 続いてドカドカと地響きが鳴り響く。


「ガルルル!」

 威嚇するような、咆哮ほうこうが放たれる。


 背中の方に、ねっとりと焼け付く気配を感じた。



「連絡を、動物達が、逃げ出した……」


「猿共が、檻を開放したってのか?」


 既にそこは、束縛のないサバンナ地帯。


 強い者が喰らい、弱者が食われる弱肉強食の世界。


 そして動物からすれば、許されぬ存在は人間あるのみ。


 この世界において、一番弱い存在は人間なのだから。


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