強さへの憧れ
こうしてアパートに戻った智は、ひとり缶ビールを飲んでいた。
明日香は多忙を極め、最近あまり会ってはいない。
明日香の活動範囲が、都内を超え、近県まで及んでいたからだ。
そんなに活躍して、体力は持つのだろうか。それでなくとも昼間は携帯ショップでの仕事もあるのに。そんな風に、智は彼女の体が心配だった。
それにもうひとつ、心配というか疑問があった。
「どうして明日香ちゃんは、通り魔や事故を直前で防げたんだろ? ……あの通り魔事件って、横浜だよな」
そんな疑問だ。
事故ってのは、滅多にないから事故なのだ。
最初からその場にいなければ、事故には出くわさない。
たまたまその場に居たのなら、救出も出来るだろうが、確率はなきに等しい。しかもたまたま他県を訪れて、そこで救うというのは偶然過ぎる。
『そんなに不思議か?』
突然パソコンが起動して、輝きと共に声が響いた。
「電王?」
それは電王だった。あれ以来姿を見せなかった電王が、久々に現れたのだ。
『鳴門明日香が、未然に事件を防いでいるのは、“預託者”の存在だ』
そしてその台詞で、智は耳を疑った。
「……預託者って、予言か?」
『そうだ我らの同志、後に起こるであろうことを、神から事前に知らされる者』
電王の台詞は、堂々たるものだった。
「……つまり明日香ちゃんは、あんたらとしょっちゅうやり取りしてる。かなり仲がいいってことか」
少しだけ悔しかった。明日香の頼れる存在は、自分ひとりと思っていたから。
特別な存在と、感じて欲しかったから……
『当然だろう、我らは同志。能力を引き出したといっても、所詮は、いち個人だ。仲間の強力がなければ、世界は変えられない。鳴門明日香は冷静沈着な女だ。ひとりではなにも出来ぬという現実を受け入れ、我らに縋った。だから我らはその能力の使い方を教え、事件の起こる時刻と場所を伝えた』
「明日香ちゃんが、あそこまで能力を使いこなせるようになったのは、あんたらのお陰?」
『そうだ。どんな器だろうと、中身が伴わなければ、ダダのガラクタに過ぎんからな』
電王の台詞は、智にとって核心を衝いていた。
確かに能力を得ても、使い方が分からない。それどころか、どんな能力なのかも分からない。
そして会話が途絶えた。
電王の金色の光に照らされ、智の顔が明るく染まる。
無言の時が過ぎる、互いに腹の内を探っていた。
「……だったら、俺にも教えてくれ。……破壊神の能力を、その使い方を」
動いたのは智だった。
恐れがあったのは事実だ。それでもそれを乗り越えなければ、明日香の助けにはならないと実感した。
『くっくくく、よかろう、教えよう。悪を射抜き、この世の邪悪を破壊する、最強戦士、破壊神の全てを』
夢は色褪せて、くたくただ。現実は厳しくて泥のよう。
それでも生きている。守りたいものはあった。
それはちっぽけで、地面を這いずる芋虫みたいな存在だが、広大な空への憧れはあった。
彼はこの時、蝶になって、大空を飛翔する夢を描いたのだ。
世界に平和と終焉をもたらす、破壊神という蝶になる夢を……




