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ネクストワールド  作者: 成瀬ケン
第三章
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強さの訳


「その秘石、ネックレスにしたんだ」


「いいだろ? そのままじゃ、なくしたりしそうでね」


 首に下げたネックレスを見せる明日香。その中央には赤い輝きが存在してる。



「綺麗だな」


「ああ、風が気持ちいいだろ? 地べたを這いずるのとは違う、神秘的な光景だ」


 天空を飛翔する明日香。その腕には智が抱かれていた。


 文明の利器も得ずに飛翔する二人。


 眼下に広がるのは広大なる夜景。地上では腐った文明と思えた光景も、こうして見れば幻想的に感じる。



「しかし凄いよ。明日香ちゃんは、自分の願いを叶えて、立派な正義のヒーローになったんだ」

 臆することなく言い放つ智。


「馬鹿、そんな言い方するなよな」

 対する明日香は、はにかむ表情だ。


「あたし、気付いたんだ。あいつが言ってた意味は、正義ってことだ。正義ってのは弱者を守ることで、悪党を排除するってこと。それは人間が決めた、歪んだ正義じゃない。狂った現代社会から、排除された弱者を救う正義だ。あたしはその為に、この力を授けられたのさ」


 その表情に浮かぶのは、大いなる自信と昂揚感。何者にも屈せぬ強い決意だ。


 そして今なら、その意味は智にも理解出来た。


「そうだね、悪からの解放をする解放者、それが明日香ちゃんの役割。だったら俺も、与えられた能力を使いこなすまで」

 静かに伝えた。



「そうだよ。ヒーローの力だぜ。授けられた、唯一無二の能力」

 それを受けて、明日香も言い放つ。


「……だけど、少しだけ不安なんだよ。……俺の能力が、破壊神ってことだ」

 それでも智には、引っかかることがあるのも本音だ。


 それは破壊神と呼ばれた、その意味だ。



 そしてそんな智を、明日香がマジマジと見つめている。


「そんなことで悩んでいたのか? 破壊神、確かに強烈なネーミングだ。だけど破壊ってのは、創造と表裏一体の言葉なんだぜ? 形あるものは、消滅するのがことわり。全ての命を宿す者は、滅亡するのが道理。分かるか、創造の前には必ず消滅が存在する。消滅があってこそ、新たなる世界が幕を開けるんだ。それが世の中の理。それにあたしらは、選ばれし人材だぜ? ヤバい能力なんてない。もし仮に、あんたがヤバい奴だったら、あたしがひねり潰すから」


 明日香の台詞は、智の中に響き渡った。


 オカルトに長ける彼女のことだ。豊富な知識を生かした台詞なんだろう。


 その明日香らしい強気な台詞には、智の不安を緩ませる、安らぎのような感情が見えていた。



「どうして明日香ちゃんは、そんなに強いんだ?」

 智が訊ねる。


 不思議だったのだ。どうして明日香が、ここまでの強い意思を持ちえているのかが。



「あたしの両親は、悪党宗教の餌食にかかって、首をつって自殺したからさ」


 それは、智に取って驚愕な告白だった。


「馬鹿だろ? 神様を信じて、多くのお布施を投じて、最後には借金抱えて自殺した。小学生だったあたしを残してだぜ? それが優しさだと思ってるのかよ」

 明日香の表情は、強がったような笑顔だ。


 それでもその根底にあるのは悲しみ。どうすることも出来なかった、悔しさに満ちていた。



「その後あたしは、ばあちゃんに育てられて……ばあちゃんは優しい人だったから、苦にはならなかったけど……そのばあちゃんも去年死んで」


 その目に涙が溢れるのが、智にも分かった。


 暫しの沈黙が流れた。


 智はやっと理解した。明日香が悪を憎み、正義を振りかざす訳が。

 見えない鎖に繋がれた、弱者を解放したいと、彼女が言った夢の理由が。




 眼下に広がるのは、栄華を誇る壮大なる都。

 文明を謳歌し、贅沢を尽くす欲望の都市。


 それでも矛盾は生じる。光の影で、智のような多くの若者は、絶望のどん底に生きているのだ。


 その負のバランスを崩せれば。


 ……智の中に、新たなる決意が浮かびつつあった。







 それからも明日香の闘いは続いた。


 凶悪犯の確保や、連続通り魔の未然での阻止、車に轢かれそうな老婆の救出、暴力団抗争の終息などだ。





 眼下に夜景を臨む、小高い丘の上。


 そこに智の姿があった。


 瞼を閉じて、静かに佇んでいる。その掌に握った、石ころに神経を集中させていた。



 暫くその体勢が続く。


 街並みは穏やかだ。風がスーッと流れ込んでくる。遠く響く雑音が、さざ波にも感じた。



「……ダメだ。やっぱり無理だ」

 やがて愕然と呟いた。


 智は自らの能力を引き出そうと、躍起になっていた。

 その能力で、明日香の力になれればと願っていた。


 故にバイト明けの深夜、こうして練習をしていたのだが、少しもその能力は発揮出来ずにいた。



「……帰るか」

 やがて力なく呟き、その場を立ち去ったのだ。



 しかし彼は、気付いていなかっただけだ。


 静かに耳を傾ければ、聞こえるだろう、微かなざわめきを。



 空気が震え、パチンと弾けていた事実を……


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