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ネクストワールド  作者: 成瀬ケン
第二章
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招待状



 その日も智は、いつものように居酒屋でバイトに明け暮れていた。


 土曜の夜、店に取っては稼ぎ時だ。逆に、智は飛び交う注文で忙殺気味だ。



「そう言えば今日も、なにか空を飛んでたな。あれは多分金魚だぜ、ヘタクソだけど、ヒレと尾っぽがあった。どこの広告なんだろうな?」


「聞いたか、例の少女殺人の犯人、移送中に死亡だってよ。いいざまだよな」


「そんなことより、駅前のストリートチームだ。"信長狩りだ"なんて、その辺うろついていたぜ。今頃乱闘の最中だろ」


「さっきのテレビ、見てたか? 例のマーキュリー様、ぶりっ子カローラの本当の姿を、さらしてたぞ」


 客達の会話は、酒に浮かれた、意味の無い会話ばかりだ。


 世の中に起こったことを、一喜一憂したってしょうがないだろう。


 どうせ全ては起こるべくして起こること。

 自分ら一般人が騒いでも、どうすることも出来ない。


 智はそんな感情を押し殺し、仕事に励む。



「忙しそうだね」

「仕方ないさ」

 唯一の救いは、明日香の笑顔だけだった。


「実はさ、あのとき応募した例のあれ、当選したらしいんだよね」

 そしてその突然の台詞が、智の興味を引き込んだ。


「嘘でしょ? あれだけ応募者が殺到してたのに?」

 信じられず、明日香を見つめた。


「しかもアパートに送られてきたんだぜ? 名前も、連絡先も教えてなかったのにさ」

 それでも明日香の様子は、サバサバしたものだ。

注文したパスタを、フォークで突っついている。


「確かにそれは不気味だな。連絡先も教えてないのに、届くなんて」


 不思議なことだ。


 応募する時、連絡先まで詳しくは書き込んではいなかった。

 当選して、その後に書き込むのだろうと理解していたのだ。



「とにかく、今日は帰るよ。ウチの大家が預かってるから、帰って受け取らないとな」

 そして明日香が席を立ち上がる。


「だけど変じゃない? 爆発物とか、嫌がらせかも」

 智が投げ掛けた。


 その線も多いに有り得る。明日香の危機は、智にとっての危機でもある。



「おい松本、いつまで油売ってるつもりだ?」

 その先輩店員の声で、我に返った。


 確かにまだバイトの時間だ。こうして悠長にお喋りしてる場合じゃない。


「大丈夫だよ。変な音が聞こえたら、電話して助けを呼ぶから」

 その様子を、笑顔で見つめる明日香。

 手を振って通路の奥に消えていった。






 こうしてバイトを終えた智は、アパートへと戻ることとなる。


 明日香からの連絡はなかった。つまり無事ということなのだろう。


「……なんだ、小包か?」

 アパートの大家管理室の前に、智に宛てた小包があった。


 弁当箱程の、小さな包みだ。差出人は不明、"当選"とだけ書かれていた。



「嘘だろ? 俺にも当たったってこと?」

 愕然となる智。


 流れからいって、あの応募に当選したということだろう。


 流石に違和感は拭えなかった、どうしようかと暫し立ち尽くした。


 凄まじい倍率を誇り、しかも明日香に続いての当選。

 しかもここの住所は書き込んだ覚えはない。


 誰かのいたずらか? 俊平が仕出かしたことなのか? もしかして爆弾? そんな不安要素ばかりが渦巻く。



「明日香ちゃん、起きてた?」

 咄嗟にスマホを取り出し、明日香に繋いでいた。


『……ああ、起きてたさ』

 スマホの向うから響くのは、抑揚ない明日香の声。


「良かった。例の当選品、危険なものじゃなかったんだね」


『……まぁな。……もしかして心配して連絡してくれたのか?』


「あ、ああ、そうだよ」


 そして智、ハッとした。


 確かに明日香のことは、心配だった。だけど連絡したのは、彼女を心配しての行為ではない。


 明らかに自分自身が、不安だったからだ。



『……そうか、ありがとね』

 明日香は、智がそんな思惑を持って連絡したとは気付いていない。


「なんか、いつもと雰囲気違うよね?」

 だけど何故か違和感を感じた。


「分かるか?」


「そりゃー、もちろん。……実は俺も、当選したんだ」

 そしてその智の台詞で、明日香のトーンが変わった。


『マジかよ! だったらそれを持って、今すぐ来てくれないか?』

 さっきまでと打って変わって、昂揚した響きだった。


 そしてそれは多分、この当選した包みに関わることなんだろうと、智も直感した。



「分かった、今から行くから」


 こうして智は、きびすを返し、走り出したのだ。

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