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ネクストワールド  作者: 成瀬ケン
プロローグ
1/30

1582年(天正十年)早朝


 1582年(天正十年)早朝。



 全てが漆黒に包まれるその時、事件は起こる。



「大殿、この陣中全て、敵に囲まれております」


「なんだと? 我らの軍勢に、刃向かう輩がおると言うのか?」

 白い寝衣を纏った、男が投げ掛けた。


 頭は月代さかやき、真ん中にまげを結っている。鋭い眼光、口ひげを蓄えている。


 いわゆる武士もののふ。崇高なるこころざしが感じ取れた。



「敵は我らが同胞、明智光秀あけち みつひで。……謀反むほんに御座います」




 歴史の表舞台で打ち果てて、ひのき舞台から引き摺り下ろされたつわものは、星の数だ。



 この世界は広大で、あらゆる歴史の積み重ねによって、紡ぎ出されている。


 もちろん現代の人々が、歴史に散った偉人を救出しようとしても、その歴史に介入することは出来ないだろう。

 何故なら、あらゆるタイムパラドックスが生じ、世界が吹き飛ぶのは必然だからだ。



 未来は様々な分岐点に成り立っている、過去は変えられない。それが世界の暗黙のルールだからだ。



 だが故に、逆の方程式も成り立つ。


 歴史の表舞台から消滅した死の直前、その瞬間に救出すれば、歴史のパラドックスに巻き込まれない訳だ。




「……人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり……」


 炎で真っ赤に染まる室内、先程の武士が舞を舞っている。


 ぐっと見開いた視線、死を覚悟した視線だ。



「ははっ、マジで幸若舞敦盛こうわかまいあつもり、踊ってたんだ」

 不意に、失笑するような声が響いた。


何奴なにやつだ?」

 武士の、鷹のように鋭い視線が突き刺さる。


「おっと、俺は敵じゃない。むしろあんたのファンだ。歴史上じゃ、真田雪村さなだ ゆきむらと、肩を並べるほど尊敬してるって」


 その視線の先に座り込むのは、およそその場にそぐわない出で立ちの人物。


 金髪にサングラス。白いTシャツに迷彩ズボン。黒い防弾チョッキに編み上げ靴。



 ……早く言えば、二千年代の今どきの若者だ。

 左側の耳にはイヤホンが差し込まれ、なにかの音楽に聞き入っている。


 指のリングが、チラチラと青い輝きを放っていた。



「我が国の人物じゃないな。名を名乗れ!」


「ホント、穏やかじゃないな。折角あんたを"未来の世界"にエスコートしようとしてるのに。どうせあんた、この世界にいれば、無残に討ち取られるんだぜ? 折角の天下取りが、ご破算じゃんよ」


 それでも若者の口に浮かぶのは笑み、余裕いっぱいの笑みだ。


 流石の武士も、その気配を察する。



「……未来の世界だと? お主、なにを画策している?」


「知れたこと。俺達の同志になってもらう。あんたのカリスマ性なら、この世界を統一することが出来る。もちろん、こんな馬鹿げた乱世の世界じゃねぇ!」

 興奮気味に立ち上がる若者。


「近代国家、嘘と欺瞞ぎまんで塗り固められた、虚勢きょせいの国家。……いや、この地球ひとつ、全てをあんたの掌に乗せちまおうって、壮大なる計画よ!」


 真っ赤な炎に包まれる館で、狂気に笑うその姿。その自信の程が、窺い知れた。



 それを察し、武士の表情も冷静なものとなる。



「……だったらお主の提案、乗ろうじゃないか」


「ははっ、流石は、俺が惚れた男。ビジネス成立だな」

 若者が、武士の手に腕を伸ばした。



 刹那、指のリングがバチバチ煌めく。



 全ての光景を青に染めた。

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