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第9話:揺れ動く運命

影の魔物を倒した俺たちは、深い安堵感を感じながらも、同時に不安を拭いきれなかった。あの黒い影の正体が何なのか、その本当の脅威がどこから来るのか、俺たちはまだ何も分かっていなかった。


「直也、気を緩めるな。あれは終わりではない。」


リーナは冷静にそう告げ、剣を鞘に戻した。俺も疲労の中で感じていた。この戦いはまだ序章に過ぎないのだと。


拠点に戻った俺たちは、ガルドス将軍に任務の報告を行った。影の魔物の存在を伝えると、彼は深刻な表情を浮かべながら地図を指でなぞった。


「影の魔物が再び現れたか……やはり、何かが動いているようだ。」


「将軍、影の魔物は普通の敵ではありません。何者かが背後で操っている可能性が高いです。」


リーナの冷静な分析に、ガルドス将軍は頷いた。俺たちも、これが単なる魔物ではないことは理解していた。だが、まだ誰がそれを操っているのか、何の目的でそれを行っているのかは謎のままだ。


「お前たちの言う通りだろう。しかし、まだその正体を掴むには手がかりが少なすぎる。これ以上の調査が必要だ。」


ガルドス将軍はそう言うと、俺たちに次の指示を与えた。


「次の任務は、影の魔物が現れた場所の近くにある古代の遺跡だ。そこに何か手がかりが残っているかもしれない。リーナ、直也、お前たちに再度その調査を任せる。」


「わかりました。」


俺とリーナはすぐに出発の準備に取り掛かることになった。影の魔物に関する手がかりを見つけなければ、この不穏な事態はますます深刻化していくだろう。


翌日、俺たちは新たな任務を遂行するため、指定された遺跡に向かった。リーナと共に、馬車に揺られながら森を抜けて進んでいく。景色は静かで平穏だが、その静けさの中には何か不吉なものが感じられた。


「リーナ、この遺跡には一体何があるんだろうな?」


俺はふとリーナに問いかけた。彼女は地図を見つめながら、少し考えてから答えた。


「古代の魔法や遺物が眠っていると言われている場所だ。だが、詳細は分からない。これまでの調査も進展がなく、危険な魔物が出没することもあり、あまり近づく者はいなかったようだ。」


「なるほど……また厄介な場所だな。」


俺はため息をつきながらも、覚悟を決めた。影の魔物や未知の敵と対峙するのは恐ろしいが、今は自分の役割を果たすしかない。


目的の遺跡に到着した時、俺たちはすぐにその異様な雰囲気を感じ取った。遺跡は古びており、石造りの建物が朽ち果てて崩れかけていた。だが、その中には異様な魔力が漂っていた。


「気をつけろ。何かが動いている気配がする。」


リーナはそう言い、剣を抜いて慎重に歩を進めた。俺も彼女に倣い、剣を握りしめながら警戒した。


遺跡の内部に足を踏み入れると、古代の文字が刻まれた石碑や、奇妙な模様が描かれた壁が目に入ってきた。その模様はどれも不気味で、何か邪悪な力が関与しているように感じられた。


「これは……一体?」


リーナが壁の一部を指さし、そこに刻まれた文字を読み取ろうとしていた。だが、古代の言語は難解で、解読には時間がかかりそうだった。


その時だった——遺跡の奥から不気味な音が響いてきた。俺たちは一瞬で戦闘態勢に入り、周囲を警戒した。


「誰だ!」


リーナが鋭く声を上げるが、返事はない。しかし、遺跡の奥から、ゆっくりと黒い霧のようなものがこちらに向かって漂ってきた。


「また影の魔物か……!」


俺は剣を構え、その霧に備えた。だが、今回は前回と違い、何かが違っている。霧の中から現れたのは、前回の影の魔物とは異なる、より強力な存在だった。


「これは……!」


その姿は、まるで人間のような形をしていながら、全身が黒い霧に包まれ、目だけが赤く光っていた。俺はその異様な存在に圧倒されながらも、すぐに攻撃の準備を整えた。


「行くぞ、直也!」


リーナが合図を送り、俺たちは一斉にその影に向かって突進した。俺は剣に魔力を込め、影の存在に向かって斬りかかった。だが、影は予想以上に素早く、俺の攻撃をかわし、そのままリーナに向かって攻撃を仕掛けてきた。


「くそっ……!」


俺はすぐに反転し、リーナを助けようとしたが、影の攻撃はすさまじく、彼女の防御を軽々と突破しようとしていた。


「甘い!」


だが、リーナは冷静だった。彼女は素早く身を引き、影の攻撃をかわし、反撃の一撃を放った。彼女の剣が影に突き刺さり、その瞬間、影の体が震え、霧が散った。


「よし、これで……」


そう思った瞬間、影は再び霧に姿を変え、形を変えて俺たちを取り囲んできた。まるで不死身のように何度でも復活するその姿に、俺たちは焦りを感じ始めていた。


「どうすれば……!」


俺は剣を握りしめ、再度魔力を集めた。影は明らかに普通の物理攻撃では倒せない。俺は自分の内に眠る魔力を呼び覚まし、それを剣に集中させた。


「これで終わりだ……!」


俺は全力で剣を振り下ろし、魔力の一閃を影に向かって放った。その瞬間、影は再び霧に変わり、今度こそ完全に消滅した。


「なんとか……倒せたな。」


俺は息を整えながら、リーナの方を見た。彼女も同じように疲れていたが、その目にはまだ鋭い光が宿っていた。


「だが、まだ終わりではない。これらの影を操っている者が必ずいるはずだ。」


リーナはそう言い、再び遺跡の奥へと歩き出した。俺も彼女に続いて奥へと進んでいく。影の魔物が現れたということは、この遺跡には何か重要な手がかりがあるはずだ。


遺跡のさらに奥に進むと、巨大な扉が俺たちの前に立ちはだかった。扉には複雑な模様と古代の文字が刻まれており、それを見たリーナは険しい表情を浮かべた。


「この扉の先に、何かがある。」


彼女の言葉に、俺は緊張しながら扉に手をかけた。ゆっくりと重い扉を押し開けると、中には一つの祭壇があり、その上には黒い石が置かれていた。


「これは……?」


俺はその石を見つめながら、何か邪悪な力がその中に宿っているのを感じた。リーナもその場に立ち尽くし、石を凝視していた。


「この石……何かの鍵かもしれない。」


リーナは慎重に石に近づき、手で触れようとしたが、その瞬間、石から不気味な光が放たれ、彼女の手を弾いた。


「リーナ、大丈夫か?」


俺が駆け寄ると、リーナはすぐに立ち上がり、頷いた。


「問題ない。しかし、この石には強大な魔力が封じられている。この遺跡に眠る何かを解き放つ鍵なのかもしれない。」


俺はその石を見つめながら、ふと背筋が寒くなるのを感じた。この石が関わる何かが、この世界に恐ろしい災いをもたらす可能性がある。


「この石を持ち帰って、ガルドス将軍に報告しよう。ここに放置しておくのは危険だ。」


リーナはそう言い、俺たちは石を慎重に運び出すことにした。この遺跡にはまだ多くの謎が残されているが、今は一度戻ってこの石についての調査を行う必要がある。


拠点に戻る途中、俺はふと自分が今いる状況について考え込んだ。影の魔物や、この遺跡に眠る石。すべてが何か大きな陰謀に繋がっているのは間違いない。


「戦争が起こるかもしれない……」


俺はその言葉を口にした。最近、魔王軍と人間界の間で緊張が高まっていることを感じ取っていた。そして、もし戦争が勃発すれば、俺はどうするべきなのか。


スパイとしての任務を果たすのか、それとも、この異世界で出会った仲間たちを守るために戦うのか——その答えはまだ出ていない。


「直也、どうした?」


リーナが問いかけてきた。俺は一瞬彼女を見つめ、静かに首を振った。


「いや、なんでもない。ただ、これからどうなるんだろうって考えてただけさ。」


リーナはしばらく俺を見つめていたが、やがて小さく頷いた。


「まだ結論を急ぐな。今は目の前の任務に集中しよう。」


彼女の言葉に、俺は少しだけ肩の力を抜いた。リーナは常に冷静で、俺を導いてくれる存在だ。彼女と共に戦っていれば、きっと俺も何かを見つけられるかもしれない。


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