表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/22

第6話:初めての任務

魔王軍での生活にも、少しずつ慣れてきた。リーナやイリスをはじめとする仲間たちと過ごす日々は、異世界に飛ばされた当初の孤独感を和らげ、俺自身の成長を感じさせてくれていた。


「……とはいえ、まだまだだな。」


訓練が終わった夜、俺はふと窓の外を眺めながら呟いた。身体能力や戦闘技術、魔力の扱いに関しても、ようやく基礎を学んだばかり。魔王軍で一人前の戦士として認められるには、まだ時間がかかりそうだった。


そんな時、部屋の扉が軽くノックされた。


「直也、入るぞ。」


聞き覚えのある声——イリスだった。彼女が部屋に入ってくると、いつものように明るい笑顔でこちらを見つめていた。


「イリス、どうしたんだ?」


「お前に任務がある。」


任務——その一言に俺は身構えた。これまで訓練漬けの日々が続いていたが、ついに初めての実戦が来たということか?


「任務って、俺にできることなのか?」


イリスは頷きながら、俺の前に一枚の書類を差し出した。そこには、魔王軍内部で使用される独特な文字が書かれていたが、リーナに教わった読み方でなんとか解読できた。


「……物資の護送?」


「そう。魔王軍はこの近くにある村との物資の取引をしているんだ。その物資を運ぶ護送部隊に、お前も加わることになった。」


なるほど、初めての任務は戦闘というよりも物資の護送か。少し安心したが、それでも油断はできない。敵対勢力や野盗などが現れる可能性もあるからだ。


「分かった。やれるだけやってみるよ。」


「大丈夫、お前ならできるさ。私も一緒に行くから、安心しろ。」


イリスがそう言って笑顔を見せたことで、俺も少し気が楽になった。


翌朝、俺たちは早朝から護送の準備をしていた。護送部隊はイリスを含む数人の戦士たちと、物資を運ぶための馬車数台で編成されていた。俺はその中の一台の馬車の護衛を任されることになった。


「直也、準備はいいか?」


イリスが声をかけてきた。彼女の背には大剣が背負われており、いつも通りの戦士らしい姿だ。


「ああ、問題ない。」


俺も剣と軽装の鎧を身に着け、準備を整えていた。イリスの表情は変わらず明るいが、その背中には確かな緊張感が漂っている。


「じゃあ、出発するぞ!」


イリスの号令で、俺たちは護送部隊を率いて出発した。朝早い時間帯のため、空気はまだ冷たく澄んでいる。馬車がゆっくりと動き出し、俺たちはそれを護る形で前進していった。


道中は特に問題なく進んでいた。護送する物資は貴重な魔石や武器類で、魔王軍の戦力を支えるために重要なものだ。それだけに、俺たち護衛の責任も重大だった。


「思ったよりも順調だな。」


俺は馬車の横を歩きながら、ふとそう呟いた。魔王軍の訓練で鍛えられたおかげで、長時間の移動にもそれほど疲労を感じなかった。イリスも馬車の先頭で馬を操り、軽やかに前進していた。


「油断するなよ、直也。」


突然、イリスの鋭い声が聞こえた。彼女が前方をじっと見つめている。俺も急いで前を見ると、少し離れた森の中に何か動く影が見えた。


「……何かいるな。」


「その通り。敵かもしれない。」


イリスは素早く剣を構え、仲間たちに警戒態勢を取るよう指示を出した。護送部隊全体が緊張感に包まれる。


「敵って、どんな連中がいるんだ?」


俺が小声で尋ねると、イリスは目を細めながら答えた。


「人間の盗賊や、魔物たちがこの辺りには潜んでいる。魔王軍の物資は貴重だから、狙われることが多いんだ。」


人間界でも似たようなことはあるだろうが、この世界では魔物や異形の存在もいるため、一層危険だ。


「直也、俺たちの力を試すいい機会かもしれないな。油断せずに備えておけ。」


「分かった。」


俺は剣を握りしめ、周囲に目を光らせた。初めての任務で、初めての戦闘になるかもしれない。気持ちは高ぶっていたが、同時に恐怖も感じていた。


すると突然、森の中から数人の男たちが飛び出してきた。彼らはボロボロの服を身にまとい、剣や斧を手にしていた。見た目からして、どうやら盗賊のようだ。


「ここで引き返せば命は助けてやるぞ!」


盗賊の一人が叫んだが、イリスは冷静に剣を構え直した。


「俺たちが引き返すわけがないだろう。お前たちの相手をしてやる!」


その瞬間、盗賊たちは一斉に俺たちに向かって突進してきた。俺もイリスに続き、剣を構え直した。


「直也、気をつけろ!」


イリスが叫ぶと同時に、一人の盗賊が俺に向かって斧を振り下ろしてきた。俺はとっさに剣を構え、それを受け止めたが、衝撃で体が後ろに吹き飛ばされそうになった。


「くそっ……!」


盗賊の力は思ったよりも強く、俺は必死に剣で防御を続けた。だが、ここで怯むわけにはいかない。俺は踏ん張りながら、反撃の一撃を繰り出した。


「はぁっ!」


俺の剣が盗賊の剣を弾き、彼の肩口に軽い傷を与えた。盗賊は痛みで怯んだが、すぐに再び斧を振り上げてきた。


「まだだ!」


俺は素早くもう一度攻撃を仕掛け、今度は盗賊の武器を弾き飛ばすことに成功した。盗賊は驚いた表情を見せながら、すぐに逃げ出そうとした。


「待て!」


だが、追いかける暇はなかった。他の仲間たちがすでに別の盗賊たちと戦っていたからだ。イリスも、数人の盗賊を相手に軽々と立ち回っている。


「さすがイリスだな……」


俺はその光景を見て感心しながら、自分も再び戦闘態勢に入った。まだ何人かの盗賊が残っている。俺はそのうちの一人に狙いを定め、素早く動き出した。


「やぁっ!」


俺の剣が再び盗賊の武器を弾き、彼を怯ませた。その瞬間、俺は一気に間合いを詰め、盗賊にとどめを刺す。


「……これで、終わりだ。」


俺がそう呟いた瞬間、最後の盗賊が仲間たちに倒された。周囲に盗賊たちの姿はなくなり、戦いは終わりを迎えた。


戦いが終わった後、イリスが近づいてきた。彼女は軽く汗をかいていたが、その顔には笑みが浮かんでいた。


「直也、初めての戦闘にしてはよくやったじゃないか。見直したぞ。」


「……まあ、なんとかってところかな。」


俺は息を整えながら、イリスの言葉に答えた。初めての戦闘は緊張したが、どうにか自分の力で乗り切ることができた。


「これでお前も、魔王軍の一員として認められるはずだ。」


イリスのその言葉に、俺は少しだけ自信が湧いてきた。まだまだ学ぶことは多いが、この世界で生きていくための一歩を踏み出せた気がした。


「よし、これで護送も無事完了だな。帰ろう。」


俺たちは物資の護送を無事に終え、再び魔王軍の拠点へと戻るために歩き始めた。初めての任務、そして初めての戦闘を経験した俺は、この異世界で少しずつ成長しているのを感じていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ