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第5話:仲間の声と、目覚める力

リーナとの試練を乗り越えてから、俺は自分の弱さを改めて痛感した。訓練に耐え、スパイとしての任務を遂行するためには、もっと強くならなければならない。リーナは厳しいが、その言葉に偽りはない。俺はまだまだこの世界の厳しさを理解していないのかもしれない。


「今日は少し違う訓練を用意している。」


リーナは、いつもの冷たい口調でそう告げた。今日の訓練場はこれまでとは違い、周囲に異様な空気が漂っている。地面には幾何学的な模様が刻まれ、辺りには奇妙な魔法の気配が感じられた。


「これは……?」


俺が疑問を口にする前に、リーナは静かに説明を始めた。


「お前は、剣や体力だけでなく、魔力の扱いを学ぶ必要がある。この世界では、魔力を使いこなせない者は生き残れない。」


「魔力……」


俺にはまだその概念がよく理解できていなかった。クロウから特別な力を授けられたことは覚えているが、それがどのように魔力と繋がっているのかは不明瞭だ。


「まずは自分の中にある魔力を感じ取れ。それができなければ、何も始まらない。」


リーナの言葉に従い、俺は目を閉じ、深く息を吸った。自分の中に眠る魔力——それを感じ取ることができるだろうか。静かな空間の中で、俺は心を集中させた。


「……何も感じない……」


自分の体内を探るような感覚で、魔力の存在を探し続けるが、何も見つからない。焦りが徐々に募ってくるが、リーナはそれを見抜いているかのように冷静だった。


「お前の力は、すでに目覚めているはずだ。だが、お前がそれを受け入れようとしていないだけだ。」


リーナの声が響く。その言葉が、俺の心に深く突き刺さった。


「俺が……受け入れていない?」


「そうだ。お前はまだ、この世界で自分が本当に何をするべきかを決めていない。その迷いが、魔力の発現を妨げている。」


リーナの言葉には、冷たさの中にも真実が含まれている。俺はまだ自分の立場に対して確固たる決意を持てていない。スパイとして人間界に忠誠を誓うのか、それとも魔王軍の仲間たちと共に生きていくのか——その答えを見つける前に、俺はこの力を使いこなすことができないのかもしれない。


「……分かった。もう一度、試してみる。」


俺は再び目を閉じ、心を静めた。自分の中に眠る魔力。それを感じ取ろうと、全神経を集中させた。次第に、胸の奥深くから微かな熱を感じ始める。それは、これまで感じたことのないエネルギーだった。


「これが……俺の魔力か?」


目を開けた瞬間、手のひらに淡い光が宿っていた。それは小さな火花のような光で、今にも消えそうだったが、確かに存在していた。


「よし、やったぞ……!」


思わず歓喜の声が漏れた。しかし、その瞬間、魔力の光はすぐに消え去ってしまった。


「……まだ足りないな。」


リーナは腕を組みながら、静かに言った。


「だが、今のお前にはまだ十分な力は備わっていない。これからの訓練でさらに強化していく必要がある。」


俺は力が抜けたように立ち尽くしながら、リーナの言葉を受け止めた。確かに、魔力の存在を感じることができたが、それを自在に操るにはまだまだ時間がかかりそうだ。


その日の夜、俺はイリスと共に食事をしていた。魔王軍の食事は、いまだに慣れない部分もあるが、訓練の疲れを癒すには十分だった。イリスは訓練を終えると、いつも俺の隣に座り、軽く談笑してくれる。彼女との会話が、俺にとって何よりの救いだった。


「今日もリーナに鍛えられたみたいだな。お前、本当にすごいよ。俺だったら、きっとあんな訓練には耐えられない。」


イリスは俺に感心した様子で話しかけてきた。俺は笑って答える。


「俺もいつまで耐えられるか分からないさ。でも、強くならなきゃいけない理由があるからな。」


「理由か……」


イリスはふと真剣な表情を見せた。


「直也、お前のその覚悟……本当にすごいと思うよ。でも、あまり無理はするなよ。お前は、いつだって全力だからな。」


イリスの優しい言葉に、俺は少しだけ救われた気持ちになった。彼女はいつも、俺のことを気遣ってくれる。


「ありがとう、イリス。お前がいてくれるから、俺も頑張れるんだ。」


俺の言葉に、イリスは照れたように笑った。


「……そう言ってくれると嬉しいよ。でも、私はお前を助けるためにここにいるんじゃない。お前はお前自身の力で立ち向かっているんだ。」


その言葉が、俺の胸に深く響いた。イリスは俺を助けたいという気持ちを持っているが、それ以上に、俺が自分自身の力で成し遂げることを望んでいるのだろう。だからこそ、彼女の言葉には重みがある。


翌日、俺は再びリーナの前に立っていた。彼女は俺をじっと見つめ、何かを考えているようだった。


「お前にもう一つの試練を与える。」


リーナは冷静にそう言うと、手を掲げて何かの呪文を唱え始めた。その瞬間、俺の目の前に巨大な魔物が現れた。それは鋭い爪を持ち、体全体が闇のオーラで覆われている。


「こいつは、グリムストーン。強力な魔力を持った魔物だ。この魔物を倒すことが、お前にとって次の試練となる。」


俺は驚きと恐怖を感じながら、魔物を見上げた。グリムストーンは威圧的な咆哮を上げ、俺に向かってゆっくりと近づいてくる。


「これを俺一人で倒すのか……?」


リーナは頷いた。


「そうだ。お前がこの魔物を倒すことで、自分の力を試せ。それができなければ、今後の訓練も意味をなさない。」


俺は剣を握りしめ、グリムストーンに向かって立ち向かうことを決意した。全身に緊張が走り、汗がにじむ。だが、ここで逃げるわけにはいかない。俺はスパイとして生き残るためにも、この試練を乗り越えなければならないのだ。


「行くぞ!」


俺は叫び声と共に前へと突進した。グリムストーンは鋭い爪で俺に攻撃を仕掛けてきたが、辛うじてかわすことができた。だが、その次の瞬間、巨大な尾が俺に向かって振り下ろされる。


「——っ!」


俺は瞬時に剣を構え、防御しようとしたが、その衝撃で体が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。全身に激しい痛みが走り、息が詰まる。


「くそ……!」


俺は立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かない。グリムストーンはその隙を逃さず、再び俺に向かって突進してきた。


「……これじゃ、終わりか……?」


目の前に迫るグリムストーンを見ながら、俺は絶望感に襲われた。だが、その瞬間——


「直也、頑張れ!」


遠くからイリスの声が聞こえた。彼女がどこからか俺を見てくれている。彼女の声に励まされ、俺は再び立ち上がる力を得た。


「俺は……まだ負けられない!」


俺は叫びながら、全身の力を振り絞り、再び剣を握りしめた。グリムストーンが迫ってくるその瞬間、俺の中で何かが弾けた。


「魔力……感じる……!」


俺の手の中に、再びあの淡い光が灯った。だが、今度はそれがはっきりとした形を持ち、剣に力を宿しているのが分かる。


「これで終わりだ……!」


俺は全力で剣を振り下ろし、グリムストーンに向かって突進した。剣に宿った魔力が光り輝き、グリムストーンの体を貫いた。


「——っ!」


グリムストーンは苦しそうな咆哮を上げ、その場に崩れ落ちた。俺はその場に立ち尽くし、全身の力が抜けていくのを感じた。


「やった……俺は、やったぞ……!」


俺は喜びの声を上げた。ついに、自分の力で試練を乗り越えたのだ。リーナは静かに俺の方へと近づき、無表情のまま言った。


「……少しは成長したようだな。だが、これで終わりではない。まだお前には、やるべきことが残っている。」


俺はその言葉を胸に刻みながら、静かに頷いた。リーナの試練を乗り越えたが、これが俺の道の始まりに過ぎないことを痛感していた。


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