第6話:シエル
〜真・プロローグ〜
騎士、それは国に忠誠を誓い、国の為に戦う者達・・・なのだが世の中にはどの国にも属さない自由なる騎士達も存在する。自ら船団を立ち上げ、世界を旅する騎士達を人々はいつしか『騎士』と呼ぶ様になった。
そんな騎士と呼ばれる女騎士と幼き少年がある約束を交わしてから七年後・・・
王子である少年の冒険の物語が遂に幕を開くのであった。
ワース王国。ブリテン島最南部に位置する温暖でのどかな気候に包まれた場所に存在する国で漁業と土木が主な産業となっている。約数百年もの間、隣国との戦争に巻き込まれることもはたまた他国から侵略される事すらも無く、王族や国民との距離が近い。文字通り「平和」そのものの国であった。
近年では国が設立した『ワース王国軍』がこの国の若者にとっても憧れの職業となっており、これは七年前、此処へ訪れた女騎士オーディンが当時幼かった二人の王子を救った事によりワース国王がの兵力増強を検討した事が始まりで元々は王族の護衛の強化を目的としていたが次第に荒れ狂う戦乱の時代を予見し、国を守る戦力として軍と呼ぶに相応しい力を得たのである。
快晴の空の下・・・新たに整備された城下町の広場には彼女率いる『グングニル騎士団』来訪を記念する碑が建てられており、辺りでは今日も多くの人で賑わいを見せる。そんな中、記念碑の前には今日も白亜の剣を腰に付けた少年の姿があった。
ワース国王第一王子シエル・ワース。騎士オーディンの最初にして最後の弟子であり、彼女に命を救われた一人である。
あれから7年・・・15歳になった彼は剣の腕を更に上げ、その若さでワース王国軍の最高階級である『将軍』の座に就いたと同時にこの国で一番強い剣士として活躍していた。
「師匠、あれから七年経ちましたけど。僕はあの"約束"・・・一度も忘れたことはありません。」
記念碑を見ながらシエルは微笑みながら嘗ての師が出港した日を思い返した。彼にとっては自分の人生を変えてくれた恩人が旅立ったのが昨日の様に感じていた。
「おーい!シエル!」
すると大声で自身の名を呼ぶ声が耳に届き、彼がそちらへ顔を向けると手を振りながらこちらまで歩いてくる同じ年頃の少年兵の姿が視界に映った。
「フロン、見回り終わったのか?」
「おう!バッチリだぜ!!」
フロンはシエルの前までやって来るとニヤリと笑みを浮かべてサムズアップする。
「てか、またこの石碑の前に居るのかよ?お前、好きだよな。」
「うん、好きだよ。なんたって師匠の記念碑だからね。」
「まーたシショーって奴の話かよ?確かオーディンだっけか?すげぇ騎士なんだろ?ソイツ。」
「そうだよ。師匠は強くて僕の恩人なんだ。」
シエルは頷いて再び記念碑へ顔を向けて微笑むと何かを思い出して再び彼を見た。
「そういえばフロン、他の兵達はさっき急いで城の方へ戻って行ってたけどお前は行かなくていいのか?」
「え?そうなのか?今日は見回り以外何も聞かされて無いからなぁ・・・。まあ、いいだろ。」
「お前、知らないぞ。」
無邪気に笑みを浮かべるフロンにシエルは呆れた表情をする。
「まあまあそれよりさ!暇になったし向こうの商店に行こうぜ?」
「うーん、午後から用事あるからそれまでなら別に良いんだけど。」
「よーし!じゃあ行こう!!」
「わわっ!?ちょ、待って!押さないでって!!」
勢いよく背中を押してきたフロンに戸惑いながらシエルは彼に連れられて城下町の商店へ向かうことになるのだった。
◇◇◇
僕はシエル・ワース。この国の第一王子にして将軍だ。過去に師匠と慕っていた騎士、オーディンに剣術を教わってからその腕を磨き上げ、家柄ではなく実力で今の地位まで登り詰めた。
ゆくゆくは国王に即位し、この国を先導する立場としての役割が待ち受けている・・・のだが、僕は国王になる事は望んでいない。理由は王族という立場を捨てでも叶えたい"夢"そして"約束"があるからだ。
「おーい、シエル。」
ふと、隣で歩くフロンに声を掛けられ我に返る。彼は今年入軍してきたばかりの兵士だ。歳が近い事もあってか部下以前に立場を越えた親友でもあり、こうして町の中を一緒に歩く仲でもある。
「なーに、さっきからボーッとしてんだ?」
「ううん、何でも無いよ。」
先程、思い返していた師匠との"約束"を再び胸の中にしまう。この約束や夢の事はフロンを含めて誰にも言っていない。王子と言う立場もあるからだ。
「なあなあ!あの店気にならないか?行こうぜ!」
「あのさフロン。僕達は遊びに来てるんじゃないんだよ?」
「分かってるって!これも見回りだからさ!」
「ホントかよ・・・」
ニヤリと笑みを浮かべるフロンに苦笑する。コイツ、ちょっと抜けてる所があるから本当に心配だ。さっきも午後に予定はないとか言っていたが本当だろうか?
「あら!シエル王子、こんにちは。」
「こんにちは、お婆さん。」
すると雑貨店を営む老婆の前に足を止めると丁寧に挨拶を返した。
「また見回りですかい?毎日、ありがとうねぇ」
「いえ、僕は見回り位しか皆さんにしてあげる事がありませんので。」
「そんな事無いですよ?元気なシエル様の姿を見れて私も元気を貰っていいるんですよ。ホッホッホッ」
「そうですか・・・それなら僕も嬉しいです。」
「さあて、今日も商売を頑張ろうかねぇホッホッホッ」
老婆はそう言うとウキウキした気分になりながら店の奥へと戻って行った。
「シエルってスゲーよな。町の人皆に慕われているしよ。」
「そうかな?」
「オレが見回りしてる時もお前の話で持ちきりだよ。」
「そうなんだ。でも僕、大したことはやってないよ。王子だからね。」
「いや、身分とかそんなんじゃなくて町の人達はお前の人柄に惹かれてると思うぜ?第一、オレもそうだしよ。」
「そ、そう・・・?」
フロンにそう言われて少し照れくさくなる。王子と言う立場で無いにしろ民との交流は必須だ。
「・・・っと、もう時間かな?見回りはこの位にして城に戻らないと。父上から招集がかかっているんだ。」
「国王様に?お前何かしたのか?」
「違うよ。最近テルが取引している隣国の話だと思う。」
「『ウェールズ王国』だっけか?近頃お前の弟がよくそこまで行ったり来たりしてるよな?何してんだ?」
フロンはいつの間にか買っていたげそ焼きを頬張りながら言った。
「僕も詳しくは知らないよ。多分、その事を話すんだと思う。」
「ふーん、じゃあ戻ろっか?行こうぜ!」
「あっ!ちょ!だから腕を引っ張ならないでよ!?うわっ!」
再びフロンに手を引かれた僕は待った無しにそのまま城の方へと連れて行かれるのだった。
◇◇◇
城下町から少し離れた渓谷が広がる山岳地帯・・・その麓で優雅に立つ白亜の城、ワース城が存在する。この城は西に山岳地帯、東に見晴らしのいい海岸に囲まれている為、他国が攻めずらい場所に建っており北側に目を向けると城下町を一望する事が出来、今日まで民を優しく見守っている。
自分の家でもある此処へ戻ってきた僕はフロンと共に堅牢な門の前までやって来ると衛兵に頭を下げられながら門をくぐってようやく玄関前まで辿り着いた。
「よし!着いたぜ。シエル!」
「着いたぜ・・・じゃないよ。いきなり手を引かれて走らされた身にもなれよな・・・。」
「へへへ、悪ぃ悪ぃ」
何処か悪戯っぽく笑うフロンにジトっとした目を向ける。せっかちというかおっちょこちょいというか・・・本当、フロンは"自由"過ぎて手を焼いてしまう。・・・"自由"か。
「ふーっ!さて、見回りの任務も終えたしオレは昼寝でもするかな〜」
「相変わらず呑気な奴だなお前は。まあ、くれぐれもミスとか忘れ事とかしないようにね。」
「大丈夫、大丈夫!こんなオレがそんなヘマする訳・・・」
フロンが自慢げにそう言った瞬間・・・
「フーロン?」
彼の言葉を遮るかのように背後から女性の声が聞こえてくる。
僕とフロンはそちらに顔を向けるとそこにはワース王国軍副将軍フォルスがやや顔を引き攣らせて立っていた。彼女は僕の副官・・・つまり右腕として補佐をしてくれている人だ。実質的には部下なのだが年上の為、軍の管理を代理で行ってくれている・・・がこの表情、嫌な予感しかしない。
「あれ?フォルス副将軍じゃないですか!どうしたんですか?そんなに顔を引き攣らせて。」
「どうしたんですか?・・・よーくそんな呑気に言えますねぇ?フロン君?」
「へ?」
フロンはキョトンとした表情を浮かべると僕は全てを察する。お前、終わったぞ。やっぱりさっき兵士達が城へ帰って行ってたのは・・・
「フロン君?今日の午後は兵士全員で集まって戦闘対策のミーティングを行う予定でしたよねぇ?」
「えっ?あれ?そうでしたっけ?」
「そうでしたっけ?・・・ですってぇ〜????」
「うっ・・・」
遂にわなわな震えながら笑みを浮かべたフォルスを見て、フロンは苦笑しながらこちらに顔を向けてくる。あ、お疲れ様。
「だから言っただろ。お前何してんだ。」
「い、いや!ち、違うんだよ!違うんだって!!オ、オレそんな事全然聞いて・・・はうっ!?」
冷や汗を流すフロンのうなじ襟をガシッと掴んだフォルスは容赦なく彼を引きずって行く。
「言い訳は後で聞くわ。兎に角、こっちへいらっしゃい!」
「ぎゃぁぁぁあ!シエル!助けてくれぇ〜!!」
フロンは助けを求めるもそのまま城の西側にある駐屯所へ吸い込まれるように連行されて行った。
「だから言っただろ・・・アイツ、言ってる側からミスってるじゃないか。」
連れ去られたフロンを見送り、その姿が消えるのを確認すると肩を落として呆れの表情を浮かべる。あの様子だと始末書じゃ済まされないだろう。フォルスを怒らせると殺されはしないが何されるか分からないからね・・・・。
「おや?兄上。」
今度は僕の事を呼ぶ声が後ろから聞こえ、振り返ると弟のテルの姿があった。七年前に僕の事を馬鹿にしていた姿はもう無く、今は互いを認め合う仲の良い兄弟として成長していた。
軍の将軍として活動する僕に対し、テルは13歳という若さで外交官に就任。今では外交を中心とした政策を行い、父であるワース国王の公務や執務の一部を代行する立場となっている。僕にとっては自慢の弟だ。
「その様子ですと今、戻って来られたのですね。」
「まあ、そんな感じかな?」
テルに笑みを浮かべながらそう答える。
「丁度いいタイミングですね。これから父上の所へ向かう予定でした。兄上ももう向かわれますよね?」
「うん、そのつもりだよ。」
「では、早速参りましょう。今回は私からも是非、兄上の耳にお届けしたい事がございますので。さあ」
「そ、そう・・・」
"耳に届けたい話"が何なのか気になりながらもテルに道を譲られた僕は彼と並んで城の中へと入るのだった。




